Mybドメインに3つのリピート配列をもつR1R2R3型Mybは、植物の細胞周期中でG2/M期に特異的な遺伝子の転写制御に重要なはたらきをしていることがわかっています。以前の研究から、タバコのR1R2R3-Myb(NtmybA1とNtmybA2)は培養細胞を使った一過的な発現系の実験から、G2/M期遺伝子を標的とする転写活性化因子であることがわかっていました。また、これらのMybによく似た構造をもつシロイヌナズナのMyb
(MYB3R1とMYB3R4)は、遺伝子破壊株の解析から細胞質分裂を正に制御していることが明らかになっていました。しかし、タバコ植物体におけるNtmybA1とNtmybA2の働きに関する直接的な実験結果は得られていませんでした。この論文では、ポテトウィルスXを用いたウィルス誘導性ジーンサイレンイング
(VIGS)を利用することにより、同じニコチアナ属でタバコに近縁なNicotiana benthamiana
において、NtmybA1とNtmybA2の発現抑制を行いました。遺伝子発現抑制が生じた植物の解析から、不完全な細胞質分裂が高頻度で誘発されていることがわかりました(図1)。これらの結果から、ニコチアナ属の植物においてもR1R2R3型Mybが細胞質分裂の正の制御を担っていることが明らかになり、R1R2R3型Mybの機能が植物種を超えて保存されていることが示されました。
図1.NtmybA1とNtmybA2の発現を抑制することにより生じる不完全な細胞質分裂
VIGS法によりNtmybA1とNtmybA2の発現が同時に抑制された植物(Nicotiana benthamiana)では、不完全な細胞質分裂が生じる結果、2つの核を持つ表皮細胞が観察される(C)。また、通常、気孔は二つの孔辺細胞に取り囲まれて存在しているが(A)、遺伝子発現抑制が生じると孔を伴わない1つ丸い孔辺細胞が高頻度で生じる(B)。このような孔辺細胞にも核が2つ存在していた。
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