論文紹介

研究代表者

関 原明

所 属 理化学研究所 植物科学研究センター
植物ゲノム発現研究チーム
著 者

Jong-Myong Kim, Taiko Kim To, Junko Ishida, Akihiro Matsui, Hiroshi Kimura, Motoaki Seki
(金 鍾明, 藤 泰子, 石田 順子, 松井 章浩, 木村 宏, 関 原明)

論文題目

Transition of Chromatin Status During the Process of Recovery from Drought Stress in Arabidopsis thaliana.
(乾燥ストレスからの回復過程におけるシロイヌナズナのクロマチン動態)

発表誌

Plant and Cell Physiology, 53, 847-856. (2012)

要 旨

 クロマチン状態の変化は、植物においても、発生や環境ストレス応答などに関わる遺伝子の制御に関与している。我々は、乾燥誘導性遺伝子(RD20、RD29AおよびAtGOLS2)などについて、乾燥ストレスからの回復過程における、遺伝子抑制とクロマチン状態の変動について解析を行った。乾燥処理により転写が誘導され、蓄積したこれら乾燥誘導性遺伝子のmRNAは、再吸水後もある程度維持されるにも関わらず、これら遺伝子上に結合したRNAポリメラーゼIIは、再吸水処理により速やかに乖離することが明らかとなった。このことは、これらの遺伝子の転写装置の機能が転写抑制により速やかに停止することを示している。また同様に、 転写活性化のマーカーであるヒストンH3K9acはこれら乾燥誘導性遺伝子上で、乾燥ストレス処理により高度に蓄積した後、再吸水処理により速やかに消去されていた。 これに対して、もう一つの転写活性化のマーカーであるヒストンH3K4me3は再吸水処理後、徐々に減少はするものの、転写活性停止後5時間でも低レベルで維持されることが明らかとなった。このことは、H3K4me3がエピジェネティックなストレス記憶のマークとして機能することを示唆する。今回の研究から、乾燥ストレス誘導性遺伝子領域において、乾燥ストレス状態から回復までの過程で、クロマチン状態は構造的にも動的な変化を伴うことが示唆された。

図.乾燥誘導性遺伝子上での、乾燥からの回復過程における転写およびクロマチン状態の経時的変化を示すモデル
研究室HP http://labs.psc.riken.jp/pgnrt/