論文紹介

研究代表者

平野 博之

所 属 東京大学大学院理学系研究科
著 者

Tanaka, W., Toriba, T., Ohmori, Y., Yoshida, A., Kawai, A., Mayama-Tsuchida, T., Ichikawa, H., Mitsuda, N., Ohme-Takagi, M., and Hirano, H.-Y.
(田中若奈,鳥羽大陽,大森良弘,吉田明希子,河合新,間山-槌田智子,市川裕章,光田展隆,大目-高木優,平野博之)

論文題目

The YABBY gene TONGARI-BOUSHI1 is involved in lateral organ development and maintenance of meristem organization in the rice spikelet.
YABBY遺伝子TONGARI-BOUSHI1はイネ小穂の側生器官の発生とメリステム構築を制御する)

発表誌

Plant Cell 24: 80-95 (2012).

要 旨

 植物の葉や花の器官(側生器官)などは,メリステム(頂端分裂組織)から分化し,その機能に大きく依存している.これまで,側生器官が正常に発生するためには,メリステムから何らかのシグナルが伝えられることが必要であると考えられてきた.今回,私たちは,イネのTONGARI-BOUSHI1 (TOB1)遺伝子の機能を解析することにより,メリステムの機能を正常に保つためには,側生器官からメリステムへの働きかけが必要であることを明らかにした.

 このtongari-boushi1 (tob1) 変異体では,主に小穂器官の形態異常や発育不全,器官数の減少,メリステムの早期停止など,多面的表現型が見られる.特に特徴的なのは,内外穎のかわりに,円錐状の帽子のような器官(シームレス穎)が形成されることである(図1).さらに,小穂の初期発生の解析やマーカー遺伝子の解析結果を併せて,多面的な小穂器官の異常は小穂メリステムの機能不全と密接に関係していること,tob1変異体ではメリステムの運命と維持が一部損なわれていることが明らかとなった.遺伝子単離の結果,TOB1遺伝子は,YABBYファミリーの転写因子をコードしていることが判明した.空間的発現パターンを解析したところ,TOB1は外穎・内頴など小穂の側生器官で一様に強い発現が観察されたが,メリステムでの発現は全く検出されなかった.したがって,tob1変異体のメリステムにおける異常は,TOB1が細胞非自律的に作用していることを示唆している.すなわち,TOB1は,側生器官がメリステムの機能を正常に保つためのシグナルの生成に関与していると考えられる.

図1.tob1変異体の小穂の表現型.(A)シームレス穎(先端部を除去).(B)発生中のシームレス穎(チューブ状の器官).
研究室HP http://www.biol.s.u-tokyo.ac.jp/users/hirano/lab.html