論文紹介

研究代表者

犬飼 義明

所 属 名古屋大学大学院生命農学研究科
著 者 Y. Kitomi, H. Ito, T. Hobo, K. Aya, H. Kitano and Y. Inukai
(木富悠花、伊藤寛子、保浦徳昇、安益公一郎、北野英己、犬飼義明)
論文題目 The auxin responsive AP2/ERF transcription factor CROWN ROOTLESS5 is involved in crown root initiation in rice through the induction of OsRR1, a type-A response regulator of cytokinin signaling.
(オーキシン誘導性CRL5遺伝子はサイトカイニン信号伝達を負に制御することによりイネの冠根形成を促す)
発表誌

Plant Journal 67: 472-484.

要 旨    根の発生はオーキシンにより正に、またサイトカイニンにより負に制御されるが、これら両ホルモン間の拮抗作用を支配する分子機構は未解明の点が多い。イネは地上部基部茎葉節から数多くの不定根 (冠根) を発生させる。この冠根形成が阻害されるイネcrl5 変異体の原因遺伝子の単離した結果、CRL5 はAP2/ERFファミリーに属する転写因子をコードしており、オーキシン信号伝達を制御するARFにより直接的な発現誘導を受けることが示唆された。  興味深いことに、CRL5 過剰発現体のカルスは再分化培地において根を旺盛に発達させていた。再分化培地中にはサイトカイニンが含まれ、これにより通常は根の形成が抑制される一方、シュート形成が促される。そこで、様々なサイトカイニン濃度の培地上でカルスを生育させた結果、CRL5 過剰発現個体カルスは本来ならば根が誘導されない高濃度のサイトカイニン存在下でも、多くの根を発生させていた(図1)。そこで、サイトカイニン信号伝達に関与する遺伝子群の発現解析を行った結果、負の制御因子であるOsRR1 等の発現が野生型にくらべcrl5 変異体で低く、逆にCRL5 過剰発現体で高いことが判明した(図2A)。さらに、crl5 変異体においてCRL5 プロモーター下でOsRR1 を発現させた形質転換体では、crl5 変異体の冠根数の減少が回復する傾向が認められた(図2B)。以上より、オーキシンにより誘導を受けたCRL5 は、サイトカイニン信号伝達を負に制御することにより冠根の発生を促すものと考えられる。
図1.CRL5 過剰発現体はサイトカイニンの発根抑制作用に対して耐性がある
図2.CRL5 はサイトカイニンシグナリングを負に制御することで冠根形成を促進する
A: 野生型・変異体・過剰発現体におけるOsRR 遺伝子の発現レベル
B: crl5 変異体背景にempty vector, ProCRL5:OsRR1, ProCRL5:CRL5を導入した形質転換体の表現型
C: イネ冠根のinitiationを制御する分子機構のモデル
研究室HP http://www.agr.nagoya-u.ac.jp/~brf/