論文紹介

研究代表者

平野 博之

所 属 東京大学大学院理学系研究科
著 者 Ohmori, Y., Toriba, T., Nakamura, H., Ichikawa, H., and Hirano, H.-Y.
(大森良弘、鳥羽大陽、中村英光、市川裕章、平野博之)
論文題目 Temporal and spatial regulation of DROOPING LEAF gene expression that promotes midrib formation in rice.
(中肋形成を促進するイネDROOPING LEAF遺伝子の時空間的発現制御機構)
発表誌

Plant J. 65, 77-86.

要 旨    DROOPING LEAF (DL) 遺伝子は、花において心皮(雌ずい)を決定するとともに、葉においては中肋形成を促進する、イネの発生にとって重要な遺伝子である。本論文では、心皮と中肋という2つの全く異なる組織で DL遺伝子が発現するための制御機構を解明することを試みた。その結果、葉原基の中肋予定領域で DL 遺伝子が初期から特異的に発現するためには、第2イントロンに存在する約200bpの領域が必須であることが明らかとなった。また、維管束などにおける異所的な発現を抑えるためには、転写開始点の上流約7.4kbの領域が必要であった。しかし、これらの領域には、心皮での発現を促進する因子は検出されず、葉と花では、独立したシス領域により DL 遺伝子の発現が制御されていることが明らかとなった。
  DL 遺伝子は、YABBYファミリーに属する転写因子をコードしている。そこで、ウィルス由来のVP16の転写活性化ドメインとDLとを融合したタンパク質を、中肋で特異的に発現する制御領域の元に連結し、イネに導入した。その結果、中肋予定領域の向背軸に沿った細胞数が増加し、中肋が太くなることが明らかとなった。さらに、この形質転換体の葉は、野生型より強い直立性を示した(図)。葉の直立性の向上は、太陽光の効率的な受光や蜜稙栽培に適している。したがって、本方法による DL 遺伝子の機能向上は、農業上のイネの品種改良にも有効であると考えられる。
図1.DL 遺伝子の機能増強による葉の直立性の向上
(左)野生型のイネ、(中央、右) DL-VP16融合タンパク質を中肋予定領域に特異的に発現させた形質転換体。
研究室HP http://www.biol.s.u-tokyo.ac.jp/users/hirano/lab.html