論文紹介

研究代表者

上田 貴志

所 属 東京大学大学院理学系研究科
著 者 Kazuo Ebine, Masaru Fujimoto, Yusuke Okatani, Tomoaki Nishiyama, Tatsuaki Goh, Emi Ito, Tomoko Dainobu, Aiko Nishitani, Tomohiro Uemura, Masa H. Sato, Hans Thordal-Christensen, Nobuhiro Tsutsumi, Akihiko Nakano, and Takashi Ueda
(海老根一生、藤本優、岡谷祐哉、西山智明、郷達明、伊藤瑛海、台信友子、西谷亜依子、植村知博、佐藤雅彦、Hans Thordal-Christensen、堤伸浩、中野明彦、上田貴志)
論文題目 A membrane trafficking pathway regulated by the plant-specific RAB GTPase ARA6.
(植物に特異的なRAB GTPase, ARA6が制御する膜交通経路の研究)
発表誌

Nature Cell Biology, in press. (7月号掲載予定)

要 旨   真核細胞の中には、ゴルジ体や液胞などの一重の膜に囲まれた細胞小器官が多数存在し、互いに膜交通と呼ばれる輸送システムにより結ばれています。この膜交通経路は、各生物において独自に多様化していることが知られていましたが、その多様性獲得のメカニズムはこれまで分かっていませんでした、我々は、植物に特有の「変わり者」の膜交通制御因子(ARA6およびVAMP727)の機能を明らかにすることにより、植物における膜交通経路多様化のメカニズムの解明を試みました。その結果、こARA6とVAMP727がともに、これまで植物では知られていなかったエンドソームから細胞膜への輸送を制御していることを突き止めました(図1)。エンドソームから細胞膜へものを運ぶ輸送経路は動物にも存在しますが、そこではARA6やVAMP727とは異なる分子が働いています。植物は、全く異なる独自の分子を使って、よく似た膜交通経路を独立に編み出していたのです。では、この膜交通経路は植物のどのような形質と関連しているのでしょうか。我々は、ARA6の機能を増強すると、シロイヌナズナが塩ストレスに強くなることを見いだしました(図2)。植物は、ARA6とVAMP727を獲得することにより新たな膜交通経路を生み出したからこそ、環境ストレスに対してより高い抵抗性を獲得することが出来たのかもしれません。
図1.進化の過程で新たなRab GTPaseとSNAREを獲得することにより、新たな膜交通経路が植物細胞内に生み出された。
図2.ARA6の活性型固定変異タンパク質の発現により、耐塩性が高まる。
研究室HP http://www.biol.s.u-tokyo.ac.jp/faculty/tchr_list/uedatakeshi.shtml