論文紹介

研究代表者 上田貴志 所 属 東京大学大学院理学系研究科
著 者 Tomohiro Uemura, Miyo Terao Morita, Kazuo Ebine, Yusuke Okatani, Daisuke Yano, Chieko Saito, Takashi Ueda, and Akihiko Nakano
(植村知博,森田(寺尾)美代,海老根一生,岡谷祐哉,矢野大輔,齊藤知恵子,上田貴志,中野明彦)
論文題目 Vacuolar/prevacuolar compartment Qa-SNAREs VAM3/SYP22 and PEP12/SYP21 have interchangeable functions in Arabidopsis.
(液胞および液胞全区画(PVC)に局在するシロイヌナズナVAM3/SYP22とPEP12/SYP21は互いの機能を代替できるQa-SNAREである)
発表誌 The Plant Journal, in press.
要 旨   植物細胞の液胞は,貯蔵タンパク質,加水分解酵素,二次代謝産物などを蓄積する,植物が生存していくうえで非常に重要な細胞小器官です。そのため,植物の液胞に物質を運ぶ分子メカニズムの解明は,植物細胞生物学の大きな課題の一つです。我々は,細胞内の膜交通システムにおいて,輸送小胞と標的オルガネラ膜の正確な膜融合を制御する分子であるSNAREタンパク質群に注目し,液胞前区画(PVC)と液胞に局在するシロイヌナズナVAM3/SYP22とPEP12/SYP21の解析を行いました(図1)。VAM3/SYP22のT-DNA挿入変異体(vam3)は,葉の形態異常,花成遅延,ミロシン細胞分化昂進などの多面的な表現型を示すのに対して,PEP12/SYP21のT-DNA挿入変異体(pep12 )は,目に見える表現型を示しません。そこで,詳細な解析を行ったところ,VAM3/SYP22とPEP12/SYP21の二重変異体は致死となること,VAM3/SYP22プロモーターの制御下におけるGFP-PEP12/SYP21の発現がvam3 変異体の表現型を完全に抑圧することが分かりました。しかし,PEP12/SYP21プロモーターの制御下でvam3 変異体に発現したGFP-VAM3/SYP22は,液胞膜に局在するにも関わらずvam3 変異体の表現型を抑圧できませんでした(図2)。これらの結果から,VAM3/SYP22とPEP12/SYP21は機能が重複し,一定の条件下で互いの機能を代替できることが示されました。長年,VAM3/SYP22とPEP12/SYP21は, 液胞輸送経路においてそれぞれ独立して機能すると考えられてきました。今回の発見により,液胞輸送経路におけるVAM3/SYP22とPEP12/SYP21の機能をもう一度見直すことになり,液胞に物質を運ぶ分子メカニズムを解明する上で新展開が期待されます。
図1
図1 シロイヌナズナVAM3/SYP22とPEP12/SYP21の細胞内局在 根の細胞における独自のプロモーター制御下で発現したGFP-VAM3/SYP22(A)とGFP-PEP12/SYP21(B)の共焦点レーザー顕微鏡画像。GFP-VAM3/SYP22は主に液胞膜に,GFP-PEP12/SYP2は主にPVCに局在している。スケールバーは10μm
図2
図2 VAM3/SYP22とPEP12/SYP21は機能を代替する
VAM3/SYP22 プロモーター制御によるGFP-PEP12/SYP21(proVAM3 ::GFP-PEP12)の発現は,vam3 変異体の表現型を相補する.一方,PEP12/SYP21 プロモーター制御によるGFP-VAM3/SYP22(proPEP12 ::GFP-VAM3)の発現は,vam3 変異体の表現型を相補することができない。
研究室HP http://www.biol.s.u-tokyo.ac.jp/faculty/tchr_list/uedatakeshi.shtml