論文紹介

研究代表者 町田泰則 所 属 名古屋大学大学院理学研究科
著 者 Hiroo Takahashi, Hidekazu Iwakawa, Satiko Nakao, Takahiro Ojio, Ryo Morishita , Satomi Morikawa, Yasunori Machida, Chiyoko Machida, Takeshi Kobayashi.
(高橋広夫、岩川秀和、中尾幸子、小塩高広、森下遼、森川里美、町田泰則、町田千代子、小林猛)
論文題目

Knowledge-based Fuzzy Adaptive Resonance Theory and Its Application to the Analysis of Gene Expression in Plants.
(知識ベースファジィ適応共鳴理論とその植物における遺伝子発現解析への応用)

発表誌

Journal of Bioscience and Bioengineering 106 (6) 587-593 (2008)

要 旨

 近年のDNAチップ技術の発展により、細胞内の遺伝子の発現情報(遺伝子のON-OFF状態)を、同時に観測することが可能となった。このDNAチップから得られた情報は、それぞれの生物における数万にも渡る遺伝子の発現情報であるために、非常に膨大であり、コンピュータにより解析が、不可欠である。生物情報を、コンピュータにより解析する学問を、バイオインフォマティクスと呼び、現在注目を浴びている。遺伝子の発現情報を解析する手法として、階層的クラスタリングといったクラスタリング解析が用いられるが、本研究では、生物学的な解析に優れていることが分かっている FuzzyART を用いた。一般的に、クラスタリング解析では、クラスタリング手法を遺伝子発現情報に適用した後、生成したクラスター(グループ)に含まれる興味のある遺伝子に注目して解析を進めるのであるが、本研究では、文献的に調べた興味がある遺伝子を、データベース化し、このデータベースの情報を、使うことで、より高速にかつ正確なクラスタリングを行うことが出来る知識ベース FuzzyART (KB-FuzzyART) を開発した。この KB-FuzzyART を、シロイヌナズナの葉の発生分化に関わる AS1, AS2 遺伝子の下流遺伝子の探索に応用した(図1)。
  これにより、AS1とAS2下流候補遺伝として、48遺伝子を抽出し、このなかには新たに YAB5 や KNAT6 が存在することがわかった。今後は、この48遺伝子のうち、さらに、未知なものを調べることで、AS1と AS2 下流遺伝子が上手く抽出できると期待される。


図:KB-FuzzyARTによるマイクロアレー解析法プロセスの模式図
まず、葉の発生や分化、ホルモン関係遺伝子を約300個、文献的に調べ、データベースを作成した(リスト遺伝子)。これにつて、従来のFuzzyARTを適用し、クラスタリングを行い、クラスターの代表パターンを構築した。その結果、17クラスターが存在することがわかった。続いて、アレー解析により得られた未知の遺伝子の発現パターンがどのクラスターに分類されるか調べた。このような解析方法が、KB-FuzzyARTである。今回は、 野生株, as1 変異株, as2 変異株, AS1 過剰発現株, AS2 過剰発現株 の5つのシロイヌナズナの株について、DNAチップとしてGeneChip ATH1を用いて、遺伝子発現情報を調べた。GeneChip ATH1は22746遺伝子を調べることが出来るが、いずれの株でも、遺伝子発現に変化がなかったものに関しては、AS1, AS2 とは無関係であると考えられるので、解析から除去し、残った約5000の遺伝子をクラスタリング解析に用いた。すでに、AS1, AS2 の下流にあることが、分かっているBP遺伝子に注目し、BP遺伝子が含まれるクラスターをBPクラスターと定義した。このBP クラスターには、48遺伝子が含まれていた。

研究室HP http://www.bio.nagoya-u.ac.jp:8001/~yas/b2.html