論文紹介

研究代表者 平野博之 所 属 東京大学大学院理学系研究科
著 者 Suzaki, T., Ohneda, M., Toriba, T., Yoshida, A., and Hirano, H.-Y.
( 寿崎拓哉、大根田真子、鳥羽大陽、吉田明希子、平野博之)
論文題目

FON2 SPARE1 redundantly regulates floral meristem maintenance with FLORAL ORGAN NUMBER2 in rice.
FON2 SPARE1 FLORAL ORGAN NUMBER2 とともに、イネの花分裂組織を冗長的に制御する)

発表誌 PLoS Genet. 5:1-9, 2009.
要 旨

 植物の形づくりは、胚発生時に作られた頂端分裂組織(メリステム)の機能に依存しています。メリステムには幹細胞が存在し、幹細胞は自分自身を複製するとともに、葉や花などが分化するための細胞を供給します。葉は茎頂分裂組織から、花の各器官は花分裂組織から作られます。シロイヌナズナでは、CLAVATA3 (CLV3) が主要なシグナル分子として働き、茎頂や花分裂組織において幹細胞の増殖を負に制御していることが知られています。私たちは、イネにおいても、FLORAL ORGAN NUMBER2 (FON2)が花分裂組織で、CLV3と同様の働きをしていることを示してきました。
  本論文では、 FON2と冗長的に花分裂組織を制御しているFON2 SPARE1 (FOS1) 遺伝子を見出しました。さらに、FOS1は花分裂組織のみならず、茎頂分裂組織をも負に制御していることが判明しました(図1)。これまでの知見を総合すると、イネには幹細胞を制御する経路が少なくとも3つ存在し、メリステムの種類によってその作用が異なっていると考えられます(図2)。さらに、栽培イネのジャポニカでは、FOS1に突然変異が起こっており、機能が損なわれていることもわかりました。進化学的な解析から、私たちは、ジャポニカが野生イネから進化してくる過程で、FOS1にこの突然変異が起こったと推定しています。

 

図1:FOS1の過剰発現により、幹細胞が失われてしまった茎頂分裂組織(右)。左はベクターコントロール。


図2:イネにおけるメリステムの制御モデル。実線の太さは,作用の大きさを示している。破線はまだ未解明の部分。×印は機能をもっていないことを示す。 FM, 花分裂組織; IM, 花序分裂組織; vegetative SAM, 茎頂分裂組織。

研究室HP http://www.biol.s.u-tokyo.ac.jp/users/hirano/lab.html