論文紹介

研究代表者 川口正代司 所 属 基礎生物学研究所
著 者 Satoru Okamoto, Erika Ohnishi, Shusei Sato, Hirokazu Takahashi, Mikio Nakazono, Satoshi Tabata, Masayoshi Kawaguchi
(岡本暁、大西恵梨香、佐藤修正、高橋宏和、中園幹生、田畑哲之、川口正代司)
論文題目

Nod Factor/Nitrate-Induced CLE Genes that Drive HAR1-Mediated Systemic Regulation of Nodulation
(HAR1を介した根粒形成の全身制御を駆動するNodファクター/硝酸誘導性CLE遺伝子)

発表誌 Plant Cell Physiol. 50: 66-67 (2009)
要 旨  マメ科植物における根粒の数は、根とシュートの器官間コミュニケーションによって厳密に制御されている。この制御は、根粒菌の感染を受け根からシュートに伝達される「根由来シグナル」とシュートで合成され根に伝達される「シュート由来シグナル」の2つの遠距離シグナル物質より構成されると考えられている。しかしながらその分子的実体は不明である。これまでにミヤコグサでは、シュートで機能する因子としてHAR1受容体が単離されていた。HAR1はシロイヌナズナのSAMの維持に必要とされるCLV1と高い相同性を示すことから、根で作られるCLV3様のCLEペプチドをシュートで受容すると考えられる。
 そこで私たちはミヤコグサのゲノム情報から39個のCLE遺伝子を見いだし、その中から「根由来シグナル」の有力な候補としてLjCLE-RS1, -RS2を発見した。これら2つのCLE遺伝子は根粒菌が分泌する正の制御因子Nodファクターによって根で強く誘導され、毛状根で過剰発現させると形質転換根のみならず非形質転換根までにもシステミックに根粒形成を抑制した。さらに、LjCLE-RS2は硝酸の添加によっても強く発現が誘導され、窒素環境に応じた根粒形成制御の栄養感知シグナルとしても働くことが示唆された。以上の知見をもとにLjCLE-RS1, -RS2ペプチドを介した根粒形成の遠距離フィードバックモデルを提唱した(図1)。
図1
図1 根粒形成の遠距離フィードバックモデル
宿主植物が根粒菌の分泌するNodファクターを受容すると、根粒形成の初期応答が開始されるとともに根由来シグナルが誘導されてシュートへ移行する。シュートのHAR1受容体は根由来シグナルを感知し、その下流でシュート由来シグナルが誘導される。やがてシュート由来シグナルが根に伝達されてシステミックな根粒形成の抑制が行われる。
研究室HP