論文紹介

研究代表者 杉本慶子 所 属 理化学研究所植物科学研究センター
著 者 Christian Breuer, Ayako Kawamura, Takanari Ichikawa, Rumi Tominaga-Wada, Takuji Wada, Yoichi Kondo, Shu Muto, Minami Matsui, Keiko Sugimoto.
(クリスチャン ブラウアー、河村彩子、市川尚斉、富永(和田)るみ、和田拓治、近藤陽一、武藤周、松井南、杉本慶子)
論文題目 The trihelix transcription factor GTL1 regulates ploidy-dependent cell growth in the Arabidopsis trichome.
(トライへリックス型転写因子GTL1はシロイナズナのトライコームにおいて核相依存的な細胞生長を制御する。)
発表誌 Plant Cell・ 21・2307-2322・2009
要 旨  トライコームは植物の葉や茎の表面に形成される突起状の構造物であり、中でもシロイナズナの葉のトライコームは単一の細胞で構成される特異な細胞で古典的な細胞分化と形態形成のモデルシステムとして盛んに研究がおこなわれている。近年の研究から、初期の分化過程を制御する転写因子がいくつも同定されてきたが、これらの因子がその後の急速な細胞生長や分岐過程をいかに制御するかについてはほとんど明らかとされていない。今回の論文ではトライコームの初期分化や分岐過程には異常がなく、細胞生長だけが野生型レベルを超えて昂進される新規突然変異体について報告した (図1)。この変異体の原因遺伝子はトライへリックス型の転写因子であるGT-2-LIKE1 (GTL1)をコードする。GTL1はトライコーム細胞が核内倍加を終了し、最終的な大きさに達する時期に発現するが、GTL1の機能を欠損したgtl1変異体では分岐を終了した細胞で核内倍加が正常に終了せず、核相が野生型よりも上昇し、巨大なトライコームを形成する (図1・2)。またgtl1変異体では核内倍加周期制御に関連する細胞周期遺伝子の発現に異常がみられ、核内倍加が抑制されるsiamese (sim) 変異体との二重変異体ではsimの表現型を部分的に回復させる。これらの結果から、GTL1は核相依存的な植物細胞の生長を積極的な転写制御を介して調節していることが明らかになった。
図1
図1 GTL1は細胞生長を抑制する働きを持つ。
GTL1の機能を欠損したgtl1変異体では細胞生長が抑制されないため、野生型よりも大きなトライコームが形成される。
図1
図2 トライコーム形成過程でのGTL1の役割
隣り合う表皮細胞列の中から、一部の細胞(青色でマークした細胞)がトライコームに分化し、細胞生長を始める。GTL1遺伝子はトライコーム細胞が最終的な大きさに達する時期に発現し、細胞生長を終了させる。トライコームの細胞生長には核相の倍加現象が深くかかわっており、GTL1は核内倍加の進行にブレーキをかける。
研究室HP http://labs.psc.riken.jp/cfru/