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  • 論文紹介【第4回論文紹介】
  • シロイヌナズナTEBICHI遺伝子の遺伝学的解析およびゲノム解析から明らかになった、DNA複製・組換え・遺伝子発現の間の関係

論文紹介

研究代表者 中村研三 所 属 名古屋大学大学院生命農学研究科
著 者 Soichi Inagaki, Kenzo Nakamura, Atsushi Morikami.
(稲垣宗一、中村研三、森上敦)
論文題目 A Link among DNA Replication, Recombination, and Gene Expression Revealed by Genetic and Genomic Analysis of TEBICHI Gene of Arabidopsis thaliana.
(シロイヌナズナTEBICHI遺伝子の遺伝学的解析およびゲノム解析から明らかになった、DNA複製・組換え・遺伝子発現の間の関係)
発表誌 PLoS Genetics 5, e1000613, 2009.
要 旨  DNAの複製・修復の際に、クロマチンの構造やその修飾状態を保持してゆくことは、ゲノム全体の遺伝子の発現や抑制が正しく行われるために重要である。そのため、クロマチン構造の維持に直接関わるタンパク質の遺伝子に変異が起こると、転写制御因子などの遺伝子を含む広範な遺伝子の発現が異常となり、メリステムの構造異常に起因する帯化など様々な発生異常がひきおこされる。
 そうした突然変異株の1つにtebichi (teb) がある。TEB遺伝子は、DNAへの直接的な作用を予想させるヘリカーゼおよびDNAポリメラーゼドメインをもつタンパク質をコードする。実際、これまでの解析から、TEB遺伝子はDNA損傷に対するゲノム維持機構に関わることが明らかになっている。teb変異は、さまざまな遺伝子に発現異常を起こすが、他の帯化変異株とは異なり、ヘテロクロマチン部分の遺伝子発現には影響しない。
 今回、この変異により発現が異常となる遺伝子の特徴を調べたところ、ゲノム中に極めて多コピーで存在するHelitronトランスポゾン様配列の近傍遺伝子や配列の近接度や相同性により差があるもののタンデムに重複した遺伝子への影響が顕著であった。この影響は、DNA複製の異常を検知する機構やDNA相同組換えに関わる遺伝子の変異により顕著に強められた。これらの結果は、teb変異体を使った解析が、重複遺伝子の相同組換えとクロマチン形成を含めた遺伝子発現調節との関連性を明らかにする新しい糸口となり得ることを示している。
図1
図1DNA複製の異常の検知に関わるATRの欠損は、teb変異株の成長の遅れや葉のゆがみなどの表現型を亢進する. 播種後3週間目の野生型株、teb-1変異株、teb-1 atr-2二重変異株 。
図1
図1tebに見られるHelitronトランスポゾン近傍遺伝子、タンデム重複遺伝子の発現異常.
A ; 上流2kb以内にHelitronがある遺伝子 B;タンデムに並ぶ重複遺伝子(高相同性) C;ゲノム上で重複している遺伝子(高相同性)の各条件について、条件に合った遺伝子群(赤)とそれ以外の遺伝子群(青)について、それぞれteb-1と野生型株の間での各遺伝子の発現量の比を求め、その比をもつ遺伝子の出現頻度を比較した.いずれにおいても、赤のグラフは、青のグラフよりも右にシフトしていることから、teb-1ではHelitron近傍遺伝子や重複遺伝子の発現量が上昇していることがわかる.
研究室HP http://tabacum.agr.nagoya-u.ac.jp/