論文紹介

研究代表者 馳澤盛一郎 所 属 東京大学大学院新領域創成科学研究科
著 者 Higaki T, Kustuna N, Sano T, Kondo N, Hasezawa S.
(桧垣匠、朽名夏麿、佐野俊夫、近藤矩朗、馳澤盛一郎)
論文題目 Quantification and cluster analysis of actin cytoskeletal structures in plant cells: role of actin bundling in stomatal movement during diurnal cycles in Arabidopsis guard cells.
(植物細胞におけるアクチン細胞骨格構造の定量とクラスター解析: シロイヌナズナの日周期依存的な気孔開閉運動におけるアクチン束化の役割)
発表誌 The Plant Journal 61, 156-165 (2010)
要 旨

 細胞生物学の研究において,細胞構造に関する評価や分類は研究者の定性的な判断に委ねられているのが一般的です。しかしながら,そのようなアプローチでは客観性に欠ける判断を下してしまう危険性も指摘されています。また,特に多量の画像を評価する場合には研究者への負担も増すため判断ミスを犯してしまう可能性もあります。
私たちはこれらの問題を解決するため、細胞構造の定量的評価とクラスタリングに基づく新しい画像解析フレームワークを考案しました。本画像解析フレームワークでは顕微鏡画像から細胞骨格の配向,束化,密度を新規パラメータにより定量的に自動評価し,これらの数値パターンに基づいて顕微鏡画像をクラスタリングします。本手法により多量の顕微鏡画像を逐一チェックすることなく,客観的に評価・分類することが容易になりました。本手法を日周期に伴う気孔開閉運動におけるシロイヌナズナ孔辺細胞アクチン繊維構造の解析に適用したところ,気孔開口過程で一過的に束化が誘導されること,アクチン繊維の恒常的な束化を誘導した場合には気孔開口が抑制されることなど新知見が見出され,アクチン繊維の一過的な束化が気孔開口の重要な要件である可能性が示唆されました。一連の結果は本画像解析フレームワークの有用性を示すものであり,本手法の広い利用による細胞生物学研究のより一層の発展が望めます。

図1
図1 本研究で提案する画像解析フレームワーク
顕微鏡画像から注目する特徴を定量的に評価し(ここでは気孔開度,細胞骨格の配向,束化,密度),クラスタリングにより顕微鏡画像を評価・分類する。本手法により,研究者への負担は軽減されると同時に顕微鏡画像の客観的な評価と分類が可能になる 。
研究室HP http://hasezawa.ib.k.u-tokyo.ac.jp/zp/hlab