論文紹介

研究代表者 関 原明 所 属 理研PSC 植物ゲノム発現研究チーム
著 者 Jong-Myong Kim, Taiko Kim To, Tatsuya Nishioka and Motoaki Seki.
(金 鍾明、藤 泰子、西岡達矢、関 原明)
論文題目 Chromatin regulation functions in plant abiotic stress responses.
(クロマチン制御は植物の非生物的ストレス応答において機能する)
発表誌 Plant, Cell & Environment (2009) in press..
要 旨  真核生物の転写制御には、ヒストン修飾を介したクロマチンの構造変換が深く関わっている。本総説では、植物における環境ストレス応答時(特に乾燥、低温、塩)のエピジェネティックな制御に関する最近の知見をまとめた。幾つかのストレス応答遺伝子領域において、乾燥ストレス応答時のヒストン修飾変動およびクロマチン構造変換と遺伝子活性化に相関があることが報告された。また、活性化時のヒストン修飾パターンとヌクレオソームの応答様式には遺伝子ごとに特異性があった。このことから、環境変化に応答するシロイヌナズナ遺伝子はエピジェネティックに制御されることが明らかとなった。シロイヌナズナまたはイネにおいて、ヒストン修飾酵素複合体の構成因子や制御因子と考えられる幾つかの遺伝子の変異株および過剰発現株で、塩、低温、ABAなどの処理により、ストレス応答性の遺伝子群の発現変動が確認されている。また、リンカーヒストンH1やSWI/SNF複合体の構成因子など、高次のクロマチン構造変化に関与するいくつかの遺伝子が、乾燥および塩ストレス応答に関与することが報告されている。環境ストレス応答のエピジェネティックな制御機構については、いくつかの関連因子が報告され始めたばかりである。環境ストレス応答に機能するヒストン修飾酵素の同定や、ChIP-chip法およびChIP-seq法などのゲノム解析手法を用いた網羅的な研究の進展が望まれる。
図1
図1シロイヌナズナにおける環境ストレス応答時の遺伝子発現制御モデル
環境ストレス(乾燥、塩、低温)が植物体に加わると、ABAを含むシグナル伝達経路がストレス応答性の遺伝子領域を活性化するための転写因子の発現を誘導する。同時に、クロマチンリモデリング複合体であるSWI/SNF複合体が、標的遺伝子領域のクロマチン構造を緩めると考えられる。このときリンカーヒストンH1もクロマチン構造の弛緩または転写活性化に機能すると考えられる。発現誘導を受けた、ストレス応答性の遺伝子領域では、ヒストンアセチル化酵素(HAT)およびヒストンメチル化酵素(HMT)により、ヒストンタンパク質のN末端領域が化学修飾を受け、転写領域のクロマチン構造はさらに弛緩する。このとき、遺伝子領域によってヒストン8量体からなるヌクレオソームの脱落を伴う領域と、伴わない領域がある。活性化された領域ではRNAポリメラーゼII(RNAPII)が活発に転写を行う。環境ストレスの除去などにより、遺伝子発現の不活性化が誘導されると、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)およびクロマチン結合タンパク質であるHMGなどの機能により、転写の不活化および遺伝子領域のパッキングが促進されると考えられる。
研究室HP http://labs.psc.riken.jp/pgnrt/index.html