論文紹介

研究代表者 上田貴志
河内孝之
所 属 東京大学大学院理学系研究科
京都大学大学院生命科学研究科
著 者 Atsuko Era, Motoki Tominaga, Kazuo Ebine, Chie Awai, Chieko Saito, Kimitsune Ishizaki, Katsuyuki T. Yamato, Takayuki Kohchi, Akihiko Nakano, and Takashi Ueda
(恵良厚子、富永基樹、海老根一生、粟井千絵、齊藤知恵子、石崎公庸、大和勝幸、河内孝之、中野明彦、上田貴志)
論文題目 Application of Lifeact reveals F-actin dynamics in Arabidopsis thaliana and the liverwort, Marchantia polymorpha 
(新規アクチン可視化プローブLifeactによるシロイヌナズナとゼニゴケのアクチン繊維の動態解析)
発表誌 Plant Cell Physiol., published on line (doi:10.1093/pcp/pcp055)
要 旨

 アクチンは、細胞形態の形成、細胞分裂、細胞内膜交通など真核細胞の様々な現象に深く関わっていることが知られています。このようなアクチン機能の解明には、緑色蛍光タンパク質(GFP)などを用いてアクチン繊維を生きた細胞の中で可視化する技術が大きく貢献してきました。一方、これまでアクチン繊維の可視化に用いられてきたプローブの中には、予期しない二次的な影響を引き起こすものもあり、新たなアクチン可視化プローブの探索が続いています。我々は、最近開発された新規アクチン可視化プローブを植物に導入し、アクチン繊維のダイナミックな動きを観察することに成功しました。
  Lifeactは、出芽酵母のAbp140pタンパク質に由来するわずか17アミノ酸からなるペプチドです。LifeactにVenus(改変型YFP)を連結した融合タンパク質をシロイヌナズナとゼニゴケに導入したところ、両者において非常に効果的にアクチン繊維を可視化することができました(図1)。また、これまでシロイヌナズナやタバコの細胞で観察されていたアクチン繊維の波打ち運動に加え、ゼニゴケではアクチン繊維束が非常に活発に滑り運動や枝分かれ運動をしている様子も観察されました(図2)。今後これらの植物におけるアクチン繊維の運動の仕組みを解析することにより、植物の進化においてそのメカニズムがいかに多様化しているのかを明らかにできると期待されます。

 
図1
図1 Lifeact-Venusにより可視化したアクチン繊維
(A) シロイヌナズナ根の表皮細胞
(B) シロイヌナズナの根毛細胞
(C) ゼニゴケ葉状体の細胞
スケールバーはいずれも10μm
図2
図2 ゼニゴケの葉状体細胞におけるアクチン繊維の運動
三秒おきに撮影した三枚の写真をそれぞれ赤,緑,青で表示し重ね合わせた。
移動していない輝点は白色で表示される。ほぼ全てのアクチン繊維が活発に移動しているのがわかる。
研究室HP