論文紹介

研究代表者 松下智直 所 属 九州大学農学研究院
著 者 *Oka, Y., *Matsushita, T., Mochizuki, N., Quail, P.H., and Nagatani, A.
(*岡義人、*松下智直、望月伸悦、Peter H. Quail、長谷あきら)
(*These authors contributed equally to this work.)
論文題目 Mutant Screen Distinguishes between Residues Necessary for Light-Signal Perception and Signal Transfer by Phytochrome B
(変異体スクリーニングによって区別されたフィトクロムBの光受容とシグナル発信の各過程に必要なアミノ酸残基)
発表誌 PLoS Genetics 4(8): e1000158 (2008)
要 旨  植物は自らの置かれた環境に適応するために、光を周囲の様子を把握するための情報として利用している。その「情報としての光」を捉えるために植物はいくつかの光受容体を進化させてきたが、フィトクロムと呼ばれる色素蛋白質はその中でも最も主要な働きを担う赤色光/遠赤色光受容体である。フィトクロム分子は、光受容に働くN末端領域とキナーゼドメインを持つC末端領域の二つのドメインから成り、従来、C末端領域のキナーゼ活性により下流因子にシグナルが伝わると考えられてきた。我々はこれまでに、フィトクロムの最も主要な分子種であるphyBが、C末端領域からではなくN末端領域からシグナルを発することを証明し、従来の常識が誤りであることを明らかにしたが、そのシグナル伝達機構は不明である。本研究において我々は、大規模な変異体スクリーニングにより光応答の低下した変異体を多数単離し、phyB N末端領域内のミスセンス変異を新たに14同定した。この中で、光受容に全く影響を与えないものは、シグナル発信に直接関与するアミノ酸残基の変異であると考えられ、それらは興味深いことにN末端領域内の小領域にホットスポットを形成した。この小領域は、細菌やラン藻のフィトクロム分子において、蛋白質間相互作用に関わるPASドメインの構造を取ることが示されていることから、この領域がphyBにおけるシグナル発信ドメインであることが示唆された。
図

(A) 本研究で同定されたphyB N末端領域内のミスセンス変異。既知の変異(イタリックで表示)と共に示す。この中で、赤線で囲った8つの変異は、N末端領域の光受容に全く影響を与えなかったため、シグナル発信に直接関与するものであると考えられる。

(B) phyBには赤色光下で胚軸伸長を抑制する働きがあるが、各ミスセンス変異体においてはその応答が低下しており、赤色光条件で胚軸徒長が観察される(上)。しかしphyBが機能しない遠赤色光条件や暗条件では変異表現型を一切示さない(下)。NGGNLSは、phyB N末端領域をphyB変異体背景で過剰発現する形質転換シロイヌナズナであり、本変異体スクリーニングにおいて親株として用いられた。

(C) 各変異体におけるphyB N末端領域蛋白質の蓄積量を示すウエスタンブロット像(上)。同じサンプルのCBB染色像を下に示す。
研究室HP