論文紹介

研究代表者 上田貴志 所 属 東京大学大学院理学系研究科
著 者 Kazuo Ebine, Yusuke Okatani, Tomohiro Uemura, Tatsuaki Goh, Keiko Shoda, Mitsuru Niihama, Miyo Terao Morita, Christoph Spitzer, Marisa S. Otegui, Akihiko Nakano and Takashi Ueda
(海老根一生、岡谷祐哉、植村知博、郷達明、庄田恵子、新濱充、森田(寺尾)美代、Christoph Spitzer、Marisa S. Otegui、中野明彦、上田貴志
論文題目 A SNARE Complex Unique to Seed Plants Is Required for Protein Storage Vacuole Biogenesis and Seed Development of Arabidopsis thaliana
発表誌 Plant Cell, in press
要 旨  小胞を介したオルガネラ間の物質輸送は、全ての真核生物に保存された普遍的な生命現象である。一方生物は、進化の過程においてこの普遍的現象をそれぞれのユニークな体制や高次機能に適応させ、進化させてきたと考えられる。我々は本研究において、種子植物に特異的に存在する膜融合装置の機能を分子レベルで明らかにすることに成功した。

  輸送小胞と標的膜の融合は、SNARE複合体と呼ばれる保存された膜融合装置により実行される.VAMP727という分子はこのSNARE複合体を構成する分子であり、よく似た分子は種子植物のみに保存され、他の生物には存在しない.このVAMP727を含む複合体の機能を失った植物は、種子の発達に損傷を示し、正常な種子が形成できない(図1)。また、異常な種子の中では、タンパク質貯蔵液胞が断片化し、貯蔵タンパクが細胞外に誤輸送されていた(図2)。これらのことから、VAMP727は種子において貯蔵型液胞の発達に不可欠な機能を有していることが明らかとなったとともに、VAMP727を植物が獲得したことにより種子という形質の進化が促進された可能性が示唆された。
図1
図1 VAMP727複合体の機能を欠失した種子
図中黄色がかった種子がVAMP727複合体の機能を失ったもの。この種子の中の胚は白化しており、乾燥耐性を失っている。
図2
図2 種子中の貯蔵型液胞の形態と貯蔵タンパク質の輸送
野生型の種子(上段)においては貯蔵タンパク質(GFP-CT24; 緑)が貯蔵型液胞へと正常に輸送されているが、VAMP727複合体の機能を失った変異体(下段)では貯蔵型液胞が断片化し(PSV; 赤)、貯蔵タンパク質は細胞外へ誤輸送されている。
研究室HP