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  • 論文紹介【第2回論文紹介】
  • TYLCCNVウイルスの病原性因子であるβC1は、AS1と相互作用して葉の形態を変化させ、選択的ジャスモン酸応答を抑圧する

論文紹介

研究代表者 町田泰則 所 属 名古屋大学 理学研究科生命理学専攻
著 者 Jun-Yi Yang, Mayumi Iwasaki, Chiyoko Machida, Yasunori Machida, Xueping Zhou, and Nam-Hai Chua
(Jun-Yi Yang、岩崎まゆみ、町田千代子、町田泰則、Xueping Zhou、Nam-Hai Chua)
論文題目 βC1, the pathogenicity factor of TYLCCNV, interacts with AS1 to alter leaf development and suppress selective jasmonic acid responses 
(TYLCCNVウイルスの病原性因子であるβC1は、AS1と相互作用して葉の形態を変化させ、選択的ジャスモン酸応答を抑圧する)
発表誌 GENES & DEVELOPMENT 22:2564-2577, 2008
要 旨

 ウイルスは、植物に感染するとさまざまな病兆をしめす。このような感染に対して、植物は、動物の免疫系とは異なるやり方で身を守っているが、その仕組みについてはまだよくわかっていない。この仕組みを解明することは、植物を病気から守り、生産性を上げるために重要である。今回、我々は、病原微生物が植物に病気を引き起こす新しい仕組みをつきとめた。病気の仕組みに関わっているのは、シロイヌナズナのASYMMETRIC LEAVES1 (AS1)とASYMMETRIC LEAVES2 (AS2)遺伝子であり、これらの遺伝子は、葉の発生分化初期に機能し、葉の形の形成に重要である事が町田らの研究により明らかにされていた。また、AS1とAS2タンパク質は細胞の中では互いに結合して働いていると考えられていた (図1参照)。
研究対象となった病原微生物はトマト黄化葉巻病ウイルス(Tomato Yellow Leaf Curl China virus)で、感染すると、葉が黄色くなり、しわが入りかつスプーンのように上向きに湾曲して、最終的にトマトの収量が激減する。この病兆には、βC1 と呼ばれている遺伝子が関わっている。トマト黄化葉巻病ウイルスのβC1タンパク質を、シロイヌナズナでたくさんつくらせると、AS2タンパク質をたくさんつくらせた時に見られる形態と類似していた。図1に示したように、葉は上向きに湾曲して、スプーン状になったり、葉の裏側に突起をもつ棒状になった。さらに、ウイルス感染から植物を守る機構のひとつであるジャスモン酸に応答した複数の遺伝子発現を抑えることもわかった。試験管内でβC1 タンパク質はAS1タンパク質に直接結合したことから、βC1 タンパク質がAS1タンパク質と複合体を形成して、AS1に依存的に形態的な変化や遺伝子発現を引き起こしたと考えられた。

  驚いたことに、ウイルス由来のβC1タンパク質は、AS2タンパク質とアミノ酸配列はまったく異なっているにもかかわらず、細胞内では、AS2の代わりをしていると考えられた。さらに、昔から、ウイルス病理学者の研究により、このウイルスは小さな昆虫により植物から植物へ媒介されることがわかっていた。ウイルスが感染すると、葉はしわが入りスプーン状に湾曲する異常を示すが、これはウイルスを媒介する昆虫を感染植物に集める意味があると言う。今回の研究により、ウイルスは、植物の葉の形を正常に保つために機能しているAS1を標的とすることにより、つまり植物側のタンパク質をうまく利用することにより、自らが自然のなかで繁殖・増殖する仕組みを進化させてきたことがわかった。以上のように、ウイルス病の基礎的な仕組みがわかると、これを利用して、ウイルスの感染に強い植物を作ることも可能になると期待される。
図1
図16b 遺伝子を発現している形質転換植物の形態
A, 形質転換タバコ、a, c, ベクターコントロール;b, d, c, 6b 形質転換体. 葉の背軸側からの突起や葉柄の異常伸長、葉身の発達阻害、子葉と葉の上方湾曲などが見られる。B, 形質転換シロイヌナズナ、b, d, 非形質転換体;a, c, 6b 形質転換体. 子葉と葉の上方湾曲や鋸歯が見られる。
研究室HP http://www.bio.nagoya-u.ac.jp:8001/~yas/b2.html