論文紹介

研究代表者 松林嘉克 所 属 名古屋大学大学院生命農学研究科
著 者 Mari Ogawa, Hidefumi Shinohara, Youji Sakagami and Yoshikatsu Matsubayashi
(小川真理,篠原秀文,坂神洋次,松林嘉克)
論文題目 Arabidopsis CLV3 peptide directly binds CLV1 ectodomain.
(シロイヌナズナCLV3ペプチドはCLV1細胞外領域に直接結合する)
発表誌 Science 319, 294 (2008)
要 旨  植物の茎の先端の分裂組織は茎頂分裂組織とよばれ,地上部のすべての器官をつくりだす.この茎頂分裂組織では,未分化(幹細胞)状態の維持と器官分化とのバランスが常に保たれている.これまでに茎頂特異的に発現している受容体型キナーゼCLV1と分泌型ペプチドCLV3が,このバランスの維持に重要な因子であることが明らかにされていたが,両者の分子レベルでの関係は解明されていなかった.本研究では,受容体型キナーゼCLV1の細胞内キナーゼ領域をタグ(HaloTag)に置換することで安定的に発現させたCLV1細胞外領域(CLV1-deltaKD-HT)と放射性ラベルしたCLV3を用いて,CLV3がCLV1細胞外領域に直接結合すること,すなわちリガンドと受容体の関係にあることを証明した.CLV1やCLV3には構造的に類似したタンパク質が多数存在しており,植物の成長に重要な役割を果たしていることが示唆されている.これらの中からリガンドー受容体ペアを見つけ出していくことで,植物の巧みなかたちづくりのしくみが見えてくるかもしれない.
図1図1(A)CLV1およびCLV1-deltaKD-HTタンパク質の構造.SP: signal peptide, LRRs: leucine-rich repeats, TM: transmembrane domain, KD: kinase domain.CLV1の細胞内キナーゼ領域を欠失させることで,下流情報伝達系を活性化させることなく安定的に高発現できる.HaloTagは専用試薬による高感度の蛍光検出を可能にする.(B)形質転換BY-2細胞におけるCLV1-deltaKD-HTタンパク質の発現.(C)トリチウムラベルCLV3を用いた結合アッセイ.非ラベルCLV3の非存在下と存在下における結合量の差が特異的結合量に相当する.CLV1-deltaKD-HT過剰発現株由来の膜画分にのみ,約2,000 dpmの特異的結合が検出された.(D)ヨードラベル光反応性CLV3誘導体を用いたフォトアフィニティーラベル.CLV1-deltaKD-HT過剰発現株由来の膜画分にのみ,特異的なクロスリンクが検出された.このことは,CLV3のCLV1に対する結合はダイレクトであることを示している.(E)スキャッチャード解析による解離定数の算出.解離定数は17.5 nMと計算された.(F)CLV3類縁体およびCLEペプチド群によるCLV3結合の競合阻害実験.それぞれの分子の競合阻害活性の大小は,茎頂に対する生理的効果の大小によく合致した.CLEペプチド群のいくつかがそれぞれの配列依存的な親和性でCLV1と相互作用できる(痕跡を残している)ことは,共通の祖先から進化したCLV1近縁の受容体型キナーゼがCLEペプチド群の受容に関わっている可能性を示唆している.
研究室HP http://www.agr.nagoya-u.ac.jp/~bioact/index.html