論文紹介

研究代表者 中村研三 所 属 名古屋大学大学院生命農学研究科生物機構 機能科学専攻
著 者 Kojima, H., Suzuki, T., Kato, T., Enomoto, K., Sato, S., Kato, T., Tabata, S., Sáez-Vasquez, Echeverria, M., Nakagawa, T., Ishiguro, S. and Nakamura, K.
(小島久恵、鈴木孝征、加藤丈典、榎本賢一、佐藤修正、加藤友彦、田畑哲之、Julio Sáez-Vasquez, Manuel Echeverria、中川強、石黒澄衛、中村研三)
論文題目 Sugar-inducible expression of nucleolin-1 gene of Arabidopsis thaliana and its role in ribosome synthesis, growth, and development.
(シロイヌナズナのヌクレオリン-1遺伝子の糖に応答した発現とそのリボソーム形成、成長と発生における役割)
発表誌 Plant J., 49: 1053-1063 (2007)
要 旨  動物や酵母のヌクレオリンはリボソーム形成の global regulator として働き、その発現は細胞増殖と強く関連している。シロイヌナズナの2つのヌクレオリン遺伝子のうち、ほとんどの器官でもっぱら発現しているのは AtNuc-L1 であり、GFP-AtNuc-L1融合タンパク質は核小体に局在する(図1)。AtNuc-L1 の発現はショ糖やグルコースで強く誘導される。多くのリボソームタンパク質(RP) 遺伝子に加え、pre-rRNAプロセシングに関与する C/D と H/ACA snRNP サブユニット遺伝子も糖による発現誘導を受けるが pre-mRNA プロセシングに関与するU snRNP サブユニット遺伝子は糖応答性を示さず、栄養源の有無が新規リボソーム合成の重要な制限要因であることを示している。糖飢餓培養細胞に10 mM グルコースを与えると細胞増殖に先立ってAtNuc-L1の発現が誘導される。T-DNA 挿入AtNuc-L1 破壊株では野生型株に比べてpre-rRNAの成熟 25S rRNAに対する比が高く、プロセシング異常が見られる。また、RPなどリボソーム形成関連遺伝子の糖に応答した発現が低下しており、AtNuc-L1はrRNAの合成だけでなくヒストンシャペロンとしてリボソーム関連タンパク質遺伝子の発現にも関与することが示唆される。AtNuc-L1 破壊株は野生型株に比べ生育速度が遅く長命(図2,a,b)であり、枝分かれが多く(bushy; 図2b)、葉の維管束が乱れて先端が尖り(pointed leaf;図2c)、果実の不揃いなサイズと short bulve (図2d)などの表現型を示し、メリステムでのリボソーム形成の低下は個体の形作りにも深く関わることを示している。
図1図1AtNuc-L1 とGFPとの融合タンパク質のシロイヌナズナ根(左)とタバコBY-2 細胞(右)での局在
図2図2 AtNuc-L1 破壊株( AtNuc-L1-1)の示す表現型の一部。
研究室HP http://tabacum.agr.nagoya-u.ac.jp/