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計画研究の内容

【研究項目A01:メリステムと器官発生の統御系】

班員名・所属 町田 泰則 [ 名古屋大学大学院理学研究科 教授 ]
研究課題名 茎頂メリステムにおける細胞分裂と葉の発生を支配する統御系
課題番号 19060003
研究目的
本研究計画の目的は、茎頂メリステムの周辺部から葉原基が発生し、葉の3次元構造(1. 基部-先端部軸構造、2. 向-背軸構造、3. 左右相称性構造)が生み出される分子機構を解明することである。すでに、我々は、上記した3つの軸形成にはシロイヌナズナの ASYMMETRIC LEAVES1(AS1)とAS2タンパク質が重要であること、これらのタンパク質が葉原基形成の初期から機能していること、葉の向軸側の細胞分裂に対しては抑制的に働いていること、AS1と AS2 は共に核タンパク質であり核小体に隣接している構造体(AS2 ボディー)に局在していること、低分子RNAの蓄積量を調節することを通して葉の向-背軸性を制御していること、クラス I ホメオボックス遺伝子やETTIN/ARF3 遺伝子などの転写を介して、葉の形作りに関わっていることを示してきた。本研究の具体的目的は、AS1とAS2を基軸として、葉の発生分化の分子的仕組みを、上記のような観点から研究し、メリステムからの情報が葉の形成をどのように制御しているかを解明することである。
主要論文

Ueno, Y., Ishikawa, T., Watanabe, K., Terakura, S., Iwakawa, H., Okada, K., Machida, C. and Machida, Y.: Histone deacetylases and ASYMMETRIC LEAVES2 are involved in the establishment of polarity in leaves of Arabidopsis. Plant Cell 19(2), 445-457 (2007)

Terakura, S., Ueno, Y., Tagami, H., Kitakura, S., Machida, C., Wabiko, H., Aiba, H., Otten, L., Tsukagoshi, H., Nakamura, K., and Machida, Y.: An oncoprotein from the plant pathogen Agrobacterium has histone-chaperone-like activity. Plant Cell 19, 2855-2865 (2007)

Matsumura, Y., Iwakawa, H., Machida, Y. and Machida, C.: Characterization of genes in the ASYMMETRIC LEAVES2/LATERAL ORGAN BOUNDARIES (AS2/LOB) family in Arabidopsis thaliana and functional and molecular comparisons between AS2 and other family members. Plant J. Jan 19. Epub (2009)

研究室URL http://www.bio.nagoya-u.ac.jp:8001/~yas/b2.html
班員名・所属 深城 英弘 [ 神戸大学大学院理学研究科 准教授 ]
研究課題名 根系構築の基礎となる根端メリステムの発生機構
課題番号 19060006
研究目的

高等植物の地下部を占める根系の構築にとって、側根形成の役割は重要である。これまで申請者は、側根形成の分子機構を解明する目的で、側根を欠失するシロイヌナズナslr (solitary-root)変異体(Aux/IAAリプレッサータンパク質IAA14の機能獲得変異体)や、側根形成能が顕著に低下するarf7 arf19二重変異体(オーキシン応答転写調節因子ARF7, ARF19の機能欠損変異体)を用いた研究を行った。その結果、側根形成開始には、これらの変異体の原因遺伝子産物ARF7, ARF19, SLR/IAA14を介したオーキシンによる遺伝子発現制御が重要であることが明らかとなった。さらに、申請者らの最近の研究から、LBD (Lateral Organ Boundary-domain)/ASL (AS2 domain-Like)ファミリーに属するLBD16/ASL18とLBD29/ASL16がARF7, ARF19の直接の標的遺伝子として側根形成で機能することが示された。そこで、本研究では、高等植物の根系構築の基礎となる根端メリステムの発生機構を明らかにすることを目的として、(1)ARFs, Aux/IAAs, オーキシン誘導性LBD/ASLタンパク質などを介した側根形成開始の分子カスケードを明らかにする、(2)側根形成開始や側根メリステム形成・維持に異常を示す新奇変異体を用いた発生遺伝学的解析を行い、オーキシンや新奇制御因子を介した側根メリステム形成・維持の分子機構を明らかにする。

主要論文

Uehara, T., Okushima, Y., Mimura, T., Tasaka, M. and Fukaki, H. (2008) Domain II mutations in CRANE/IAA18 suppress lateral root formation and affect shoot development in Arabidopsis thaliana. Plant Cell Physiol. 49:1025-1038[Cover].

Okushima, Y., Fukaki, H., Onoda, M., Theologis, A. and Tasaka, M. (2007) ARF7 and ARF19 regulate lateral root formation via direct activation of LBD/ASL genes in Arabidopsis. Plant Cell 19,118-130.

Fukaki, H., Okushima, Y. and Tasaka, M. (2007) Auxin-mediated lateral root formation in higher plants. Int. Rev. Cytol. 256, 111-137.

研究室URL http://www.research.kobe-u.ac.jp/fsci-fukaki/fukaki/top.html
http://www.edu.kobe-u.ac.jp/fsci-biol/staff/h-fukaki.html
班員名・所属 杉山 宗隆 [ 東京大学大学院理学系研究科 准教授 ]
研究課題名 茎頂及び根端メリステム新生の共通基盤となる細胞増殖統御系
課題番号 19060001
研究目的
側根や不定根、不定芽の形成においては、予め定まってはいなかった場所で、秩序立った細胞増殖が始まり、メリステムが新たに形成される。またカルスからの器官再生では、既存の位置情報が失われた、あるいは大きく乱された中で、細胞増殖の秩序が回復し、メリステムが生じる。これらの事実は、メリステム新形成の基盤に、自律的な細胞増殖統御系が存在することを示唆している。本研究では、シロイヌナズナの器官再生に関わる温度感受性突然変異体の解析を通して、こうしたメリステム新生の基層をなす細胞増殖統御系の解明を目指す。重点的解析対象には、メリステム形成・維持と脱分化の両方が温度感受性を示すsrd2、rid1、細胞増殖全般に弱い温度感受性を示すと同時に制限温度下で帯化するrrd1、rrd2、rid4、メリステムの維持は概ね正常で新形成のみが強い温度感受性を示すrid3、rpd2を取り上げ、これらの責任遺伝子がどのように細胞増殖の統制に働き、メリステムの新形成を実現させているかを明らかにする。
主要論文

Konishi, M., and Sugiyama, M. (2003) Genetic analysis of adventitious root formation with a novel series of temperature-sensitive mutants of Arabidopsis thaliana. Development 130, 5637-5647.

Ohtani, M., and Sugiyama, M. (2005) Involvement of SRD2-mediated activation of snRNA transcription in the control of cell proliferation competence in Arabidopsis. Plant J. 43, 479-490.

Tamaki, H., Konishi, M., Daimon, Y., Aida, M., Tasaka, M., and Sugiyama, M. (2009) Identification of novel meristem factors involved in shoot regeneration through the analysis of temperature-sensitive mutants of Arabidopsis. Plant J. 57, 1027-1039.

研究室URL

http://www.bg.s.u-tokyo.ac.jp/koishikawa/research/sugi-lab/sugi-1.html

班員名・所属 柿本 辰男 [ 大阪大学大学院理学研究科 教授 ]
研究課題名 情報分子によるメリステム構築の制御系
課題番号 19060005
研究目的
メリステムを構成する細胞間ではどのような情報がやりとりされ、その結果として細胞種が決められていくのかを明らかにすることが大きな目的である。茎頂分裂組織や根端分裂組織の機能を探索するため、組織培養系を用いた実験系を構築中である。これを用いて、茎頂分裂組織や根端分裂組織で働く新規遺伝子の探索し、また、遺伝子間の機能の相互作用を調べている。細胞間の相互作用を担う因子としては、植物ホルモンやペプチド性シグナル分子などがある。植物ホルモンに関しては、特にサイトカイニンを中心に作用機構と形態形成における役割を調べている。新規のペプチド性シグナル分子を見いだすための研究も行っている。これまでに、気孔の配置を制御する分泌ペプチドEPF1、表皮の密度を調節する分泌ペプチドEPF2を見いだしている。これら以外にも新規ペプチド因子の候補を持っており、機能の解明をしていきたい。
主要論文

Hara, K., Kajita, R., Torii, K.U., Bergmann, D.C., and Kakimoto, T. (2007) The secretory peptide gene EPF1 enforces the stomatal one-cell-spacing rule. Genes Dev. 21, 1720-1725.

Matsumoto-Kitano, M., Kusumoto, T., Tarkowski, P., Kinoshita-Tsujimura, K., Vaclavikova, K., Miyawaki, K., and Kakimoto, T. (2008) Cytokinins are central regulators of cambial activity. PNAS. 105:20027-20031.

Hara, K., Yokoo, T., Kajita, R., Onishi, T., Yahata, S., Peterson, K., Torii, KU, and Kakimoto, T. Epidermal cell density is auto-regulated via a secretory peptide, EPIDERMAL PATTERNING FACTOR 2 in Arabidopsis leaves. (Plant Cell Physiology, in press)

研究室URL http://www.bio.sci.osaka-u.ac.jp/dbs01/re-paper-temp.php?id=2
班員名・所属 田坂 昌生 [ 奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科 教授 ]
研究課題名 茎頂メリステム形成の統御系
課題番号 19060007
研究目的
双子葉植物の茎頂メリステムは胚発生過程で2枚の子葉の間に形成され、これが発芽後主茎とそれに派生する器官(葉)を構築する。一方、葉の根元に側芽メリステムができて枝になり、それが変形すると花となる。これら地上部メリステム形成過程並びに地上部メリステムから葉が形成される過程を調節する分子ネットワークの全体像はまだ明らかではない。本研究ではこれを明らかにするために次の2つの研究を行う。1)茎頂メリステムの構築やそこでの葉原基の形成の空間的・時間的制御に大きく関わるオーキシンの極性を持った分布の構築機構とそれを支える細胞内極性輸送の分子メカニズムの実態を明らかにする。そのために、オーキシンの偏差分布に関連するオーキシン細胞外排出タンパク質PINや、その調節に関与するキナーゼPIDの解析を行って来た。本研究ではpid のエンハンサータンパク質MAB2とMAB4を単離して解析している。さらに、これに相同性の高いMEL1〜4の解析も行っている。2)CC-NB-LRRタンパク質の一つをコードするUNI遺伝子のLRRコード領域に変異が生じた半優性変異株uni1-D恒常的にサルチル酸を介した抵抗性関連のPR遺伝子の活性化、形成された茎頂メリステムの不活性化、葉の根元の異所的な多数の脇芽の形成という多面的な表現型を示す。本研究では、この変異株の解析を通して、茎頂メリステムの形成と活性化に関わる新奇の信号伝達系の解明を行っている。
主要論文

Furutani, M., Kajiwara, T., Kato, T., Treml S. B., Stockum, C., Torres-Ruiz, A.R., and Tasaka, M. (2007) The gene MACCHI-BOU I/ENHANCER OF PINOID encodes a NPH3-like protein and reveals similarities between organogenesis and phototropism at the molecular level. Development 134 3849-3859

HirotaA.,Kato T.,Fukaki H., Aida M. and Tasaka M. (2007) The Auxin-regulated AO2/EREBP gene PUCHI is required for morphogenesis in the early lateral root primodium of Arabidopsis Plant Cell 19: 2156-2168.

Igari K., Endo S., Hibara K., Aida M., Sakakibara, H., Kawasaki, T. and Tasaka M. (2008) Constitutive Activation of a CC-NB-LRR Protein Alters Morphogenesis through the Cytokinin Pathway in Arabidopsis The Plant Journal 55: 14-27
研究室URL http://bsw3.naist.jp/keihatsu/keihatsu.html
班員名・所属 岡田 清孝 [ 自然科学研究機構基礎生物学研究所 所長 ]
研究課題名 葉の発生における領域決定機構
課題番号 19060004
研究目的
葉はメリステムの周辺領域の中の空間的に定まった位置に形成されるが、その場所がどのようにして決定されるのか、葉原基にリクルートされた細胞に分裂と分化を促すシグナリングシステムは何か、という基本的な問題に、遺伝学・生化学・細胞生物学に加えて、ゲノム解析とモデル化などの手法を用いてアプローチすることを目的とする。具体的には、(1) 葉および花器官の原基の形成と領域化に異常を示す突然変異体からクローニングした変異遺伝子の機能と発現を解析する。(2) microRNA165/166の作用が表側領域特異的な発現に重要であることがわかったので、このmicroRNAの形成と輸送経路について解析を進める。
主要論文

Kentaro K. Shimizu, Toshiro Ito, Sumie Ishiguro, Kiyotaka Okada: MAA3 (MAGATAMA3) helicase gene is required for female gametophyte development and pollen tube guidance in Arabidopsis thaliana. Plant & Cell Physiology 49, 1478-1483 (2008).

Yuki Yoshida, Ryosuke Sano, Takuji Wada, Junji Takabayashi, and Kiyotaka Okada: Jasmonic acid control of GLABA3 links inducible defense and trichome patterning in Arabidopsis. Development 136, 1039-1048 (2009).

Noriyoshi Yagi, Seiji Takeda, Noritaka Matsumoto, Kiyotaka Okada: VAJ/GFA1/CLO is involved in the directional control of floral organ growth. Plant & Cell Physiology 50 1-13 (2009).

研究室URL http://www.nibb.ac.jp/sections/okada-k.html
班員名・所属 塚谷 裕一 [ 東京大学大学院理学系研究科 教授 ]
研究課題名 葉の後期器官発生を司る統御系
課題番号 19060002
研究目的
葉の初期原基は、茎頂メリステムを遙かにしのぐ活発な細胞増殖をおこなっている。これは、やがて先端部から基部に向けて発せられる、あるいは移動すると想定されている未知の前線、「arrest front」によって抑えられ、やがて停止すると共に、個々の細胞が分化・伸長に向かうと考えられている。これは私たち自身による解析等からも強く支持される魅力的なアイデアであるが、そのarrest frontの正体は、現在もって全く不明のままである。そこで本研究では未開拓のテーマとして、 (1) arrest frontによって、細胞の分裂と伸長がどのような制御を受けるのか。(2) arrest frontという仮想“前線”の実体は何か(3) arrest front作用前の、葉原基における高い細胞分裂活性は何によるのか。(4) arrest frontを境として空間的に切り分けられる細胞分裂領域と細胞伸長領域とは、互いに独立なのかの諸点を解明し、葉という器官の後期発生を、一体としてまとまりのあるものに統合するシステムの理解を実現する。
主要論文

Usami T, Horiguchi G, Yano S and Tsukaya H. (2009) The more and smaller cells mutants of Arabidopsis thaliana identify novel roles for SQUAMOSA PROMOTER BINDING PROTEIN-LIKE genes in the control of heteroblasty. Development 136: 955-964.

Tsukaya, H. (2008) Controlling size in multicellular organs: Focus on the leaf. PLoS Biology 6: 1373-1376

Breuer, C., Stacey, N.J., Roberts, G., West, C.E., Zhao, Y., Chory, J., Tsukaya, H., Azumi, Y., Maxwell, A., Roberts, K., and Sugimto-Shirasu, K. (2007) Arabidopsis BIN4, a novel component of the plant DNA topoisomerase VI complex, promotes organ growth by endoreduplication. Plant Cell 19: 3655-3668.

研究室URL http://www.nibb.ac.jp/%7Ebioenv2/indexj.html
http://www.biol.s.u-tokyo.ac.jp/users/bionev2/top_j.html
 

公募研究の内容

【研究項目A01:メリステムと器官発生の統御系】

班員名・所属 尾之内 均 [ 北海道大学大学院農学研究院 准教授 ]
研究課題名 植物の発生分化におけるuORFによる翻訳制御機構
課題番号 21027001
研究目的
真核生物のmRNAの 5’非翻訳領域にはupstram ORF(uORF)とよばれる小さなORFがしばしばみられる。uORFの存在が下流の主要なORFの翻訳に影響を与えることは多いが、uORFの配列が機能を持つことは稀である。その中でuORFにコードされるペプチドが下流ORFの翻訳制御に関与する例がこれまでにいくつか報告されている。我々は、シロイヌナズナにおいてuORFぺプチドにより制御される遺伝子を新たに同定することを目的として、シロイヌナズナの完全長cDNAデータベースから5’非翻訳領域にuORFを含む遺伝子を検索し、その中からuORFのアミノ酸配列を変化させた場合に下流ORFの翻訳に影響がみられるものを探索した。その結果、uORF配列に依存して下流ORFの翻訳が影響を受ける遺伝子を新たに同定し、その中に発生分化に関与することが知られる遺伝子をいくつか見いだした。本研究は、uORF配列によって発生分化に関与する遺伝子の発現がどのような機構で制御されるかを明らかにし、新たな遺伝子発現制御のメカニズムを解明することを目的とする。
主要論文

Chiba, Y., Sakurai, R., Yoshino, M., Ominato, K., Ishikawa, M., Onouchi, H. and Naito, S. (2003), S-adenosyl-L-methionine is an effector in the posttranscriptional autoregulation of the cystathionine gamma-synthase gene in Arabidopsis. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 100, 10225-10230.

Onouchi, H., Nagami, Y., Haraguchi, Y., Nakamoto, M., Nishimura, Y., Sakurai, R., Nagao, N., Kawasaki, D., Kadokura, Y. and Naito, S. (2005) , Nascent peptide-mediated translation elongation arrest coupled with mRNA degradation in the CGS1 gene of Arabidopsis. Genes Dev., 19, 1799-1810.

Onouchi, H., Haraguchi, Y., Nakamoto, M., Kawasaki, D., Nagami- Yamashita, Y., Murota, K., Kezuka-Hosomi, A., Chiba, Y. and Naito, S. (2008), Nascent peptide-mediated translation elongation arrest of Arabidopsis thaliana CGS1 mRNA occurs autonomously. Plant Cell Physiol., 49, 549-556.

研究室URL http://arabi4.agr.hokudai.ac.jp/arabi.html
班員名・所属 佐藤 忍 [ 筑波大学大学院生命環境科学研究科 教授 ]
研究課題名 シロイヌナズナ花茎組織癒合での一過的メリステム機能獲得における遺伝子ネットワーク
課題番号 21027004
研究目的
植物の茎を部分的に切断すると、切断された組織は、それまでの細胞機能を転換し、一過的にメリステマティックな状態へと移行し、細胞分裂を開始して失われた組織を分化させ、元の組織同士を癒合させることで個体機能の回復を図る。本研究では、シロイヌナズナの花茎を用い、部分的に切断された茎の組織がメリステマティックな性質を獲得し、細胞分裂および細胞分化の過程を通して組織癒合に至る約7日間のプロセスにおいて、時系列にそった遺伝子ネットワークを解析することで、メリステムの形成と機能や細胞分裂と細胞分化の協調的制御機構を解明する。実験系としては、シロイヌナズナの花茎をマイクロナイフを用いて直径の半分まで切断し、切断後1、3、5日目の茎におけるマイクロアレイ法を用いた網羅的遺伝子発現解析と癒合誘導性遺伝子群の遺伝学的・分子生物学的解析を通して、1)切断を受けた花茎の組織が細胞分裂を開始するメカニズム、特にオーキシンやエチレンなどの植物ホルモン及び各種転写制御因子等の働き、2)切断部位から分裂増殖した細胞群の分化と細胞同士が癒合接着するメカニズムを解明する。
主要論文

Chida, H., Yazawa, K., Hasezawa, S., Iwai, H. and Satoh, S. (2007) Involvement of a tobacco leucine-rich repeat-extensin in cell morphogenesis. Plant Biotechnology 24, 171-177.

Kuroha, T., Ueguchi, C., Sakakibara, H. and Satoh, S. (2006) Cytokinin receptors are required for normal development of auxin-transporting vascular tissues in the hypocotyl but not in adventitious roots. Plant Cell Physiol. 47, 234-243.

Iwai, H., Hokura, A., Oishi, M., Chida, H., Ishii, T., Sakai, S. and Satoh, S. (2006) The gene responsible for borate cross-linking of pectin RG-II is required for plant reproductive tissue development and fertilization. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 103, 16592-16597.

研究室URL http://www.biol.tsukuba.ac.jp/~plphys/shinobuhomepage/SSindex.html
班員名・所属 平野 博之 [ 東京大学大学院理学系研究科 教授 ]
研究課題名 メリステム機能による側生器官分化の制御機構
課題番号 21027005
研究目的

本研究は、単子葉類のモデル植物であるイネを研究材料とし、多分化能(pluripotent) をもつメリステム(分裂組織)から葉や花などの側生器官が発生・分化する遺伝的制御機構を明らかにすることを目的としている。
[茎頂メリステムからの側生器官分化] CLE ペプチドは、メリステムの維持や維管束分化などの植物の発生における重要な局面でシグナル分子として働いている。私たちは、これまでの研究で、イネのCLE遺伝子の1つFON2-LIKE CLE PROTEIN1 (FCP1) を過剰発現させると、メリステムが消失することに加えて、その側生器官である葉が矮化し肥厚するという現象を見出している。本研究では、CLE遺伝子の新たな機能を明らかにすることを目指して、葉の発生・分化に関するFCP1の機能を解明する。

[花器官の発生・分化を制御する遺伝子機能の解明] イネ科の花序は、小穂や小花という構造単位や護頴のような特有の器官をもち、真正双子葉植物のみならず、一般的な単子葉植物からも大きく分化している。多様な形態をもつ花の発生が、どのような遺伝子の働きにより、どのように制御されているかを明らかにすることは、植物発生学のみならず進化発生学的にも興味深い研究課題である。本研究では、全ての被子植物に共通する心皮と雄ずい、および、イネ属に特有な器官である護頴の発生・分化に関わる遺伝子の機能を解析し、これらの器官の発生メカニズムとその進化を明らかにする。
主要論文

Suzaki, T., Yoshida, A., and Hirano, H.-Y. (2008). Functional diversification of CLAVATA3-related CLE proteins in meristem maintenance in rice. Plant Cell 20, 2049-2058.

Yamaguchi, T., Lee, Y.D., Miyao, A., Hirochika, H., An, G., and Hirano, H.-Y. (2006). Functional diversification of the two C-class genes, OSMADS3 and OSMADS58, in Oryza sativa. Plant Cell 18, 15-28.

Suzaki, T., Sato, M., Ashikari, M., Miyoshi, M., Nagato, Y., and Hirano, H.-Y. (2004). The gene FLORAL ORGAN NUMBER1 regulates floral meristem size in rice and encodes a leucine-rich repeat receptor kinase orthologous to Arabidopsis CLAVATA1. Development 131, 5649-5657.

研究室URL http://www.biol.s.u-tokyo.ac.jp/users/hirano/jp/index-jp.html
班員名・所属 澤 進一郎 [ 東京大学大学院理学系研究科生物科学専攻 准教授 ]
研究課題名 茎頂分裂組織のサイズ調節に関わるCLVシグナル伝達系の解析
課題番号 21027006
研究目的

器官分化のほぼ全てが胚発生段階で完了する動物と異なり、植物は分裂組織により、死ぬまで新しい器官を作り続ける。このことから、この分裂組織は植物の形態形成において根本を担う重要な組織であり、その性質やサイズは厳密に、また遺伝的に制御されなければならないと考えられる。そのためには、分裂組織を中心とした空間認識機構・細胞間情報伝達機構は高度に発達していると考えられるが、現在、その分子基盤が整っているとは言い難い状況にある。
 本研究では、茎頂分裂組織・根端分裂組織におけるサイズの維持機構を中心に解析することで、植物における細胞間シグナル伝達系の分子機構の解明につなげたいと考えている。その中でも、細胞間シグナルと考えられるペプチドリガンド、受容体、及び下流因子の一部が同定されている唯一の系であるシロイヌナズナのCLVシグナル伝達系を実験系として利用し、CLV3ペプチドの合成・修飾・移動・受容・受容後のシグナルとCLV3ペプチドの機能様式を総合的に解析する。

主要論文

Miwa, H., Kinoshita, A., Fukuda, H., and Sawa S. (2009) Plant meristems: CLV3/ESR-related signaling in the shoot apical meristem and the root apical meristem. J. Plant Res. 122: 31-39.

Miwa, H., Betsuyaku, S., Iwamoto, K., Kinoshita, A., Fukuda, H., and Sawa, S. (2008) The receptor-like kinase SOL2 mediates CLE signaling pathway in Arabidopsis. Plant Cell Physiol. 49: 1752-1757.

Kinoshita, A., Nakamura, Y., Sasaki, E., Kyozuka, J., Fukuda, H., and Sawa, S. (2007) Gain-of-function phenotypes of chemically synthetic CLAVATA3/ESR-related (CLE) peptides in Arabidopsis thaliana and Oryza sativa. Plant Cell Physiol 48: 1821-1825.

研究室URL http://www.biol.s.u-tokyo.ac.jp/users/seigyo/lab.html
班員名・所属 伊藤 純一 [ 東京大学大学院農学生命科学研究科 助教 ]
研究課題名 イネにおける茎頂メリステムの維持に関わる因子の解析
課題番号 21027007
研究目的

茎頂メリステムはそれ自身に含まれる幹細胞を維持するとともに、繰り返し新たな器官を分化するという植物において最も普遍的な機能を持つ組織であるが、これまでの研究からその維持機構は植物間である程度多様であることが明らかとなってきた。申請者らは栄養成長初期に茎頂メリステムが維持されずに枯死してしまう変異体系統を複数同定し、そのうちの2つの系統fsm変異体およびwaf変異体から原因遺伝子の単離を進めたところ、一つは細胞分裂やクロマチンの制御に関わる因子、もう一つは低分子RNAの生成に関わる因子をコードしていた。本研究ではこのようなエピジェネティックな因子がどのようにして茎頂メリステムの維持に関わっているのかを明らかにするとともに、茎頂メリステムの維持に関わっていると考えられる鍵遺伝子のイネにおける機能解析や、これまで得られている茎頂メリステムが維持できない変異体からの遺伝子単離を進めることによって、イネの茎頂メリステムの維持を司る遺伝システムと、植物種間の多様性についての理解を深めてゆく。

主要論文

Itoh, JI., Sato, Y., Nagato, Y. (2008) The SHOOT ORGANIZATION2 gene coordinates leaf domain development along the central-marginal axis in rice. Plant Cell Physiol. 49, 1226-1236.

Itoh, JI., Hibara, K., Sato, Y., Nagato, Y. (2008) Developmental role and auxin responsiveness of class III HD-Zip gene family members in rice. Plant Physiol. 147, 1960-1975.

Abe, M., Kuroshita, H., Umeda, M., Itoh, JI. and Nagato Y. (2008) The rice FLATTENED SHOOT MERISTEM, encoding CAF-1 p150 subunit, is required for meristem maintenance by regulating the cell-cycle period. Dev. Biol. 319, 384-393.

研究室URL http://papilio.ab.a.u-tokyo.ac.jp/pbg/pages(html.)/
班員名・所属 渡邉 雄一郎 [ 東京大学大学院総合文化研究科 教授 ]
研究課題名 RNAサイレンシング機構からみたメリステムの解析
課題番号 21027008
研究目的

HYL1タンパク質とDCL1タンパク質との相互作用、機能発現にいたるドメインごとの相互作用の有無、基質となる小分子RNAとの相互作用、miRNAのプロセッシングの効率への影響などを総合してメリステム周辺に与える表現型に関する解析を行う。さらにmiRNAのプロセッシングと関連したメリステム周辺の新規因子の同定を継続する。それによってメリステム維持、形態形成に関わるmiRNAプロセッシングに関する構造体のさらなる発見が期待される。
植物特有の小分子RNAにta-siRNAがある。一度TAS-RNAとよばれるRNAが、特定のmiRNAの介在で一度切断され、その産物が次のプロセッシングを受けて生成される。その過程でSGS3, AGO7, RDR6, DCL4といった産物が特異的に関与することが明らかとなっている。ただしこの知見は遺伝学的に得られたもので、生化学的な活性や分子間の相互作用などについての知見は非常に乏しい。ta-siRNAの生成はオーキシンの感受性などとの関連も知られるようになり、この植物特異的なRNAの生成過程を明らかにすることは植物の体制形成を理解する上でも今後重要になると思われる。このなかのSGS3, RDR6分子について解析を開始する。

主要論文

Tagami, Y., Motose, H. and Watanabe, Y. (2009). A dominant mutation in DCL1 suppresses the hyl1 mutantphenotype by promoting the processing of miRNA. RNA 15,450-458.

Meyers, B.C., Axtell, M. J., Bartel, B., Bartel, D.P., Baulcombe, D., Bowman, J.L., Cao, X., Carrington, J.C., Chen, X., Green, P.J., Griffiths-Jones, S., Jacobsen, S.E., Mallory, A.C., Martienssen, R.A., Poethig, R.S., Qi, Y., Vaucheret, H., Vazquez, F., Voinnet, O., Watanabe, Y., Weigel , D. and Zhu, J.K. (2008). Criteria For Annotation of Plant microRNAs.  Plant Cell 20, 3186-3190.

Takeda, A., Iwasaki, S., Watanabe, T., Utsumi, M., and Watanabe, Y. (2008). The mechanism selecting the guide strand from small RNA duplexes is different among Argonaute proteins.   Plant and Cell Physiology 49, 493-500.

研究室URL http://bio.c.u-tokyo.ac.jp/labs/watanabe/index.htm
班員名・所属 馳澤 盛一郎 [ 東京大学大学院新領域創成科学研究科 教授 ]
研究課題名 植物メリステムにおける細胞分裂・分化制御機構のイメージング解析
課題番号 21027009
研究目的

多細胞生物である高等植物の形態は、個々の細胞を取り巻く堅い細胞壁の存在により、これに規定された各細胞の分裂と生長の方向に基づいて決定されている。植物メリステムにおける細胞分裂は細胞形態にとって始原的意義をもつが、植物細胞では動物細胞とは異なる独自の分裂様式が知られている。また、細胞分化についても植物特有の細胞内構造に基づく分化様式が示されている。
 そこで、本研究ではメリステムにおける植物細胞形態の制御機構を解明すべく、細胞分裂と分化という基本的現象における細胞内構造とその動態についての、顕微鏡画像に基づいた定量的かつ網羅的なイメージング解析を行う。特に、細胞の形態形成に関係の深い細胞核・染色体、細胞板、液胞の動態および細胞骨格系の構造的関係を重点的に解析し、メリステムでの細胞分裂から茎根の分化形態形成に至る植物細胞に特有の細胞分裂・分化様式を多角的に明らかにすることを目指す。
 本研究では、1)タバコ培養細胞BY-2、2)シロイヌナズナ植物体、3)ヒメツリガネゴケの各種の可視化細胞株を主な実験観察材料とする。いずれも我々のグループで開発を手掛けてきた材料で、元株は植物科学におけるモデル細胞・植物であり、細胞分裂周期の研究や細胞骨格、各種オルガネラの知見が集積している。これらの植物材料を用いることで、植物における細胞分裂・分化の代表的描像の取得とそれによる比較解析が期待される。すでに実績のある独自の実験観察系を利用して、メリステムからの細胞分裂・分化機構のバイオイメージングと画像情報処理による解析を行う。

主要論文

Kumagai-Sano, F., Hayashi, T., Sano, T. and Hasezawa, S. (2006) Cellcycle synchronization of tobacco BY-2 cells. Nature Protocols, 1: 2621-2627.

Higaki, T., Sano, T. and Hasezawa, S. (2007) Actin microfilamentdynamics and actin side-binding proteins in plants. Curr. Opin. Plant Biol.,10: 549-556.

Sano, T., Kutsuna, N., Becker, D., Hedrich, R. and Hasezawa, S. (2009) Outward rectifying K+ channel activities regulate cell elongation and cell division of tobacco BY-2 cells. Plant J 57: 55-64.

研究室URL http://hasezawa.ib.k.u-tokyo.ac.jp/zp/hlab
班員名・所属 上田 貴志 [ 東京大学大学院理学系研究科 准教授 ]
研究課題名 可視化とオルガネラ機能解析から探る植物の機能発現メカニズム
課題番号 21027010
研究目的

真核生物には、ゴルジ体、トランスゴルジネットワーク(TGN)、液胞、エンドソームといった単膜系オルガネラが存在し、それぞれが細胞の生存に必須の役割を担っていることが知られている。しかしながら、植物細胞内のオルガネラ間においてどのような形態的・機能的分化が存在し、それらの機能がいかに統御され、相互作用しているのかについては現在までほとんど明らかになっていない。本研究においては、特にポストゴルジオルガネラ(TGN、エンドソーム、液胞前区画、液胞)に焦点を絞り、バイオイメージング技術を駆使してそれらの形態構造や相互作用を明らかにするとともに、分子遺伝学的手法を用いて、それらのオルガネラの機能が細胞分裂やメリステムの維持、成長相の転換といった植物機能の発現に、いかに関与しているのかを解明する。そのため、まず複数のオルガネラを異なる蛍光タンパク質でラベルした、もしくは一つのオルガネラを異なるマーカーで同時にラベルした植物体を作成し、顕微鏡技術を駆使してオルガネラの形態と動態の解析を行う。さらに、オルガネラの機能異常がいかにオルガネラ形態に反映されるのか、オルガネラの機能が破綻した際植物機能の発現にどのような影響があるのかを、オルガネラ形態を指標とした変異体の探索と解析により明らかにする。

主要論文

Ebine, K., Okatani, Y., Uemura, T., Goh, T., Shoda, K., Niihama, M., Morita, MT., Spitzer, C., Otegui, MS., Nakano, A. and Ueda, T. (2008) A SNARE complex unique to seed plants is required for protein storage vacuole biogenesis and seed development of Arabidopsis thaliana. Plant Cell, 20: 3006-3021

Dhonukshe, P., Tanaka, H., Goh, T., Ebine, K., Mahonen, AP., Prasad, K., Blilou, I., Geldner, N., Xu, J., Uemura, T., Chory, J., Ueda, T., Nakano, A., Scheres, B. and Friml J. (2008) Generation of cell polarity in plants links endocytosis, auxin distribution and cell fate decisions. Nature, 456: 962-966

Goh, T., Uchida, W., Arakawa, S., Ito, E., Dainobu, T., Ebine, K., Takeuchi, M., Sato, K., Ueda, T. and Nakano, A. (2007) VPS9a, the common activator for two distinct types of Rab5 GTPases, is essential for development of Arabidopsis thaliana. Plant Cell, 19: 3504-3515

研究室URL http://www.biol.s.u-tokyo.ac.jp/faculty/tchr_list/uedatakeshi.shtml
班員名・所属 川口 正代司 [ 自然科学研究機構基礎生物学研究所 教授 ]
研究課題名 根粒原基と茎頂分裂組織の発生制御機構の解析
課題番号 21027011
研究目的

根粒形成は根とシュートを介した遠距離シグナル伝達によって制御されている。この制御を失ったミヤコグサhar1変異体は根粒を過剰に形成する。HAR1はレセプター様キナーゼをコードしており、非マメ科植物ではシロイヌナズナのSAMを制御する CLV1と最も相同性が高い。しかしながらhar1 変異体において、SAMの異常は観察されていない。マメ科植物では CLV1 に代わる未知の因子がSAMを制御していると考えられる。宮古島由来のミヤコグサより単離したklavier (klv)変異体は、根粒の過剰着生の他に、二叉分岐、帯化、花器官数の増加、花成の遅延、維管束の異常といった多面的な表現型を示す。

  本研究課題では、KLVなどのメリステム・根粒制御遺伝子を切り口に、SAMと根粒原基形成の共通制御機構の解明を試みる。また二叉分岐や帯化を導くSAMの形状の多様性を、CLV-WUS系に基づく数理モデルによって解析する。
主要論文

Okamoto S, Ohnishi E, Sato S, Takahashi H, Nakazono M, Tabata S and Kawaguchi M. Nod factor/nitrate-induced CLE genes that drive HAR1-mediated systemic regulation of nodulation. Plant Cell Physiology 50, 67-77 (2009) 

Oka-Kira E and Kawaguchi M. Long-distance signaling to control root nodule number. Current Opinion in Plant Biology 9, 496-502 (2006)

Nishimura R, Hayashi M, Wu G-J, Kouchi H, Imaizumi-Anraku H, Murakami Y, Kawasaki S, Akao S, Ohmori M, Nagasawa M, Harada K and Kawaguchi M. HAR1 mediates systemic regulation of symbiotic organ development. Nature 420, 426-429 (2002)

研究室URL  
班員名・所属 木下 俊則 [ 名古屋大学大学院理学研究科生命理学専攻 准教授 ]
研究課題名 青色光受容体フォトトロピンに制御される葉の横伸展の分子機構の解明
課題番号 21027014
研究目的

植物特有の青色光受容体フォトトロピンは、光屈性、気孔開口、葉緑体光定位運動や葉の横伸展を制御することが明らかとなっているが、これら諸反応のシグナル伝達は、ほとんど明らかとなっていない。フォトトロピン2重変異体では、葉の横伸展が起こらず、さらに青色光に応答した気孔開口が起こらない。これまでに我々は、EMS処理したフォトトロピン2重変異体を用いたスクリーニングを進め、野生株と同様に葉が横伸展し、気孔が顕著に開口した復帰突然変異体を複数単離し、単離した変異体の一つdb10-2変異体の原因遺伝子は花芽形成に関与するELF3であることを明らかにした。興味深いことに、この変異体ではフロリゲンの実体とされるFLOWERING LOCUS T(FT)の発現が葉や孔辺細胞において顕著に高まっていることを見出し、FTの新規の機能として、葉の横伸展や気孔開口への関与が示唆された。そこで、本研究ではFTやFTと同様に光周期依存性の花芽形成に関与することが知られている因子(GI, CO, SOC1, TSF, AP1, SEP1, SEP2等)の形質転換植物を作成して表現型の解析を行い、これら因子の葉の横伸展や気孔開口への関与を明らかにする。さらに、他の復帰突然変異体の原因遺伝子の同定を進める。以上の研究により、フォトトロピンに制御される葉の横伸展のシグナル伝達の分子機構を明らかにする。

主要論文

Kinoshita T., Doi M., Suetsugu N., Kagawa T., Wada M. and Shimazaki K. (2001) phot1 and phot2 mediate blue light regulation of stomatal opening. Nature 414, 656-660.

Kinoshita T, Cano-Delgado A, Seto H, Hiranuma S, Fujioka S, Yoshida S, Chory J. (2005) Binding of brassinosteroids to the extracellular domain of plant receptor kinase BRI1. Nature 433, 167-171.

Inoue S, Kinoshita T, Matsumoto M, Nakayama K, Doi M, Shimazaki K.
(2008) Blue light-induced autophoshporylation of phototropin is a primary step for signaling. Proc. Natl. Acad. Sci.USA 105, 5626-5631.

研究室URL http://www.bio.nagoya-u.ac.jp/seminar/pgp.html
班員名・所属 犬飼 義明 [ 名古屋大学大学院生命農学研究科 助教 ]
研究課題名 イネ根端メリステムの発生と異形根性の制御機構
課題番号 21027015
研究目的

イネやトウモロコシといったイネ科植物の根系は、その個体発生において順次形成される多くの不定根(冠根)によって特徴づけられる。我々はこれまでに、冠根の発生には側生器官の発生や軸の形成に関わるAS2/LOBタンパク質が重要であることを明らかにした。本申請課題ではイネを材料に用い、冠根形成に関わる新規因子であるCRL5 、およびCRL6 遺伝子の発現パターンや形質転換個体を解析することによりこれら遺伝子の機能解明を試みるとともに、新たな制御因子についても探索し、今後の根端メリステムの分子機構解明に向けた礎を築くことを目的とする。加えて、イネには形態的に異なる2種類の側根が存在する。これらの根端メリステムは明らかに大きさが異なり、また内部組織構造や伸長特性、並びにこれらの側根上にさらに高次の側根を形成する能力にも大きな差異が存在する。本申請課題ではこのようなイネの異形根性に関わる遺伝子についても、網羅的遺伝子発現解析を行うことにより探索する。これによって同一組織からの質的に異なる器官の発生に関わる遺伝子の実態に迫ることが可能となり、器官形成の新たな統御系にとって重要な知見が得られるものと期待される。

主要論文

R. Suralta, Y. Inukai and A. Yamauchi 2008. Genotypic variations in responses of lateral root development to transient moisture stresses in rice. Plant Prod. Sci. 11 (3): 324-335.

Y. Kitomi, A. Ogawa, H. Kitano and Y. Inukai 2008. CRL4 regulates crown root formation through auxin transport in rice. Plant Root 2: 19-28.

Y. Kitomi, H. Kitano and Y. Inukai 2008. Mapping of the CROWN ROOTLESS3 gene, CRL3, in rice. Rice Genet. Newslett. 24: 31-33.

研究室URL http://www.agr.nagoya-u.ac.jp/~brf/
班員名・所属 石黒 澄衛 [ 名古屋大学大学院生命農学研究科 准教授 ]
研究課題名 メリステムから花器官への変換を制御する因子の研究
課題番号 21027016
研究目的

側生器官すなわち花器官や葉が形成される最初のステップは、オーキシンの蓄積によりメリステムの一部でSTMの発現が抑制されることである。そして、その後の器官の発達過程を通じ、STMを含むKNOX1の抑制は維持される必要がある。一方、つぼみが開花して花になるときには急速な器官伸長が起きるが、ジャスモン酸の突然変異体ではそれが著しく遅延するか抑制される。このように、花器官の発達にはオーキシンとジャスモン酸の作用が不可欠であることはわかっているが、それぞれの場面を制御する遺伝子についての理解は断片的である。そこで、本研究では花器官、特に雄しべと花弁に注目し、メリステムから原基への転換、細胞の増殖と分化による器官の発達、および開花時の急速かつ同調的な細胞伸長の三つの過程に焦点を当て、オーキシンとジャスモン酸の関連に注目しながら、この一連の過程がどのような遺伝子の働きで制御され進行していくのかを解明する。

主要論文

Ishiguro, S., Kawai-Oda, A., Ueda, J., Nishida, I., and Okada, K. (2001) The DEFECTIVE IN ANTHER DEHISCENCE1 gene encodes a novel phospholipase A1 catalyzing the initial step of jasmonic acid biosynthesis, which synchronizes pollen maturation, anther dehiscence, and flower opening in Arabidopsis. Plant Cell 13, 2191-2209.

Ishiguro, S., Watanabe, Y., Ito, N., Nonaka, H., Takeda, N., Sakai, T., Kanaya, H., and Okada, K. (2002) SHEPHERD is the Arabidopsis GRP94 responsible for formation of functional CLAVATA proteins. EMBO J. 21, 898-908.

Suzuki, T., Masaoka, K., Nishi, M., Nakamura, K., and Ishiguro, S. (2008) Identification of kaonashi mutants showing abnormal pollen exine structure in Arabidopsis thaliana. Plant Cell Physiol. 49, 1465-1477.

研究室URL http://tabacum.agr.nagoya-u.ac.jp/
班員名・所属 佐藤 豊 [ 名古屋大学大学院生命農学研究科 准教授 ]
研究課題名 イネの茎頂分裂組織構築における低分子RNAの役割
課題番号 21027017
研究目的

高等植物の形作りの主要な場である茎頂分裂組織は胚発生の過程で形成され、その機能が維持されることにより植物の持続的な成長を支えている。メリステム構築といった、高等植物に根本的なプロセスは種を超えて完全に保存されていると思われてきた。しかし、申請者は茎頂分裂組織を欠失する一連のイネ胚発生致死突然変異体(シュートレス突然変異体)を用いた研究から、イネでは低分子RNA経路の一種であるta-siRNA経路が茎頂分裂組織の形成に関与することを見いだした(PNAS 2007)。この結果はシロイヌナズナを用いたこれまでの解析からは全く予想されていなかった。このような現状から、茎頂分裂組織の形成を制御する低分子RNAシグナルの「生成・伝播・受容・分化を誘導/維持する遺伝子発現」といった一連のシステムをイネにおいて明らかにする必要性を痛感し本研究を行うに至った。申請者らはta-siRNA経路によるmiR166の発現制御がイネの茎頂分裂組織構築に重要な役割を果たしていることを明らかにしたがそのメカニズムの詳細は明らかになっていない。その理由はta-siRNA経路で作られる低分子RNAに関する情報がイネではほとんどないからである。そこで、本研究ではイネのta-siRNA経路により生産される低分子RNAを網羅的に明らかにし、この情報を元にmiR166の発現制御機構に関し、低分子RNAを介した転写後レベルでの制御、クロマチンレベルでの発現制御などの可能性を検討する。

主要論文

Lacombe, S., Nagasaki, H., Santi, C., Duval, D., Piegu, B., Bangratz, M., Breitler, J.C., Guiderdoni, E., Brugidou, C., Hirsch, J., Cao, X., Brice, C., Panaud, O., Karlowski, W., Sato, Y., Echeverria, M. (2008) Identification of precursor transcripts for 6 novel miRNAs expands the diversity of the genomic organization and expression of miRNA genes in rice. BMC Plant Biol., 8, 123

Itoh, JI., Hibara, KI., Sato, Y., Nagato, Y. (2008) Developmental Role and Auxin Responsiveness of Class III HD-Zip Gene Family Members in Rice. Plant Physiol., 147, 1960-1975

Nagasaki, H., Itoh, JI., Hayashi, K., Hibara, KI., Satoh-Nagasawa, N., Nosaka, M., Mukouhata, M., Ashikari, M., Kitano, H., Matsuoka, M., Nagato, Y., Sato, Y. (2007) The small interfering RNA production pathway is required for shoot meristem initiation in rice. Proc. Natl. Acad. Sci USA, 104, 14867-14871

研究室URL http://www.agr.nagoya-u.ac.jp/~ikusyu/satogroup/
班員名・所属 伊藤 正樹 [ 名古屋大学大学院生命農学研究科 准教授 ]
研究課題名 Myb転写因子による植物の発生依存的な細胞増殖制御
課題番号 21027018
研究目的

植物の茎頂メリステムの周辺部では、活発な細胞分裂により葉や花器官の原基が形成される。これらの器官が発生していく過程では一般に、発生初期に活発な細胞分裂が起こり、その後徐々に分裂活性が低下し、最終的には極一部の細胞を除いて完全に細胞分裂が停止する。このような器官の発生ステージに依存した細胞分裂活性の変化は、時間軸・空間軸に依存した何らかの発生シグナルが個々の細胞に作用し、細胞周期制御系の活性を変化させることを通じて実現していると考えられるが、その機構はほとんど明らかにされていない。これまでの研究から、サイクリンBを初めとする多くのG2/M期制御に関わる遺伝子の上流域には共通のシスエレメント(MSAエレメント)が存在すること、このエレメントがG2/M期特異的転写に必要かつ十分であること、またMSAエレメントにはR1R2R3-Mybファミリーの転写因子が結合し遺伝子発現の制御に関わっていることを明らかにしてきた。シロイヌナズナにはR1R2R3-Myb遺伝子が5個存在し、それらはアミノ酸配列の類似性から3つのグループ(A-type、 B-typeおよびD-type)に分類される。本研究ではこれらのR1R2R3-MybがG2/M期遺伝子の転写制御を通じて、発生ステージに依存した細胞増殖のコントロールに関与している可能性を追求し、その仕組みを明らかにする。また、R1R2R3-Mybの周辺で働く新奇G2/M期制御因子の単離を目指した研究を行う。

主要論文

Araki, S., Ito, M., Soyano, T., Nishihama, R. and Machida, Y. (2004). Mitotic cyclins stimulate the activity of c-Myb-like factors for tansactivation of G2/M phase-specific genes in tobacco. J. Biol. Chem. 279, 32979-32988.

Haga, N., Kato, K., Murase, M., Araki, S., Kubo, M., Demura, T., Suzuki, K., Müller, I., Vos, U., Jürgens, G., Ito, M. (2007). R1R2R3-Myb proteins positively regulate cytokinesis through activation of KNOLLE transcription in Arabidopsis thaliana. Development 134, 1101-1110.

Kato, K., Galis, I., Suzuki, S., Araki, S., Demura, T., Criqui, M.C., Potuschak, T., Genschik, P., Fukuda, H., Matsuoka, K., Ito, M. (2009) Preferential up-regulation of G2/M phase-specific genes by overexpression of the hyperactive form of NtmybA2 lacking its negative regulation domain in tobacco BY-2 cells. Plant Physiol. 149:1945-1957.

研究室URL http://www.agr.nagoya-u.ac.jp/~bunka/
班員名・所属 青山 卓史 [ 京都大学化学研究所 准教授 ]
研究課題名 植物細胞形態形成におけるリン脂質シグナルの役割
課題番号 2102702
研究目的

植物にとって細胞形態形成は、メリステムにおける細胞増殖とともに器官および個体の形を決定する要因となっている。また、メリステム周縁で起こる細胞形態形成の制御は、しばしば細胞増殖の制御と連携して行われる。本研究では、リン脂質を細胞内で位置情報をもったシグナル分子であると捉え、ホスファチジン酸(PA)やホスファチジルイノシトール(4,5)二リン酸(PI(4,5)P2)、およびその生成酵素であるホスホリパーゼD(PLD)やホスファチジルイノシトール4リン酸5キナーゼ(PIP5K)の役割に焦点を当て、根毛形成における極性決定・維持の制御機構を明らかにする。
応募者はこれまでに、シロイヌナズナのリン脂質代謝酵素であるPLDz1およびPIP5K3 が根毛形成の鍵となる制御因子であることを明らかにした(Ohashi et al., 2003; Kusano et al., 2008)。そこで、1) それぞれの酵素の生成物であるPA およびPI(4,5)P2が根毛形態形成過程においてどのような働きをするのかを明らかにする。2)植物細胞形態形成におけるもう一つの重要な制御因子である植物のRho-type GTPase (ROP)とPLDz1およびPIP5K3の物理的相互作用をin vitroおよびin vivoにおいて検出する。これらの結果より、3) 根毛形態形成における極性決定・維持の分子機構を解明する。

シロイヌナズナの根毛の系は、多数の突然変異体や形質転換体を自由に使えるだけでなく、細胞形態形成過程を生きた個体上で連続して観察できることでも大きな利点を有する。本研究を通じて、細胞形態形成における植物にユニークな制御機構の解明を目指す。

主要論文

Kusano, H., Testerink, C., Vermeer, J.E.M., Tsuge, T., Shimada, H., Oka, A., Munnik, T., and Aoyama, T. (2008) The Arabidopsis phosphatidylinositol phosphate 5-kinase PIP5K3 is a key regulator of root hair tip growth. Plant Cell 20: 367-380.

Imai, K. K., Ohashi, Y., Tsuge, T., Yoshizumi, T., Matsui, M., Oka, A., and Aoyama, T. (2006) The A-type cyclin CYCA2;3 is a key regulator of ploidy levels in Arabidopsis endoreduplication. Plant Cell 18: 382-396.

Ohashi, Y., Oka, A., Rodrigues-Pousada, R., Possenti, M., Roberuti, I., Morelli, G., and Aoyama, T. (2003) Modulation of phospholipid signaling by GLABRA2 in root-hair pattern formation. Science 300: 1427-1430.

研究室URL http://molbio.kuicr.kyoto-u.ac.jp/mbl/index.html
班員名・所属 松永 幸大 [ 大阪大学大学院工学研究科 准教授 ]
研究課題名 リン酸化イメージングによる植物器官発生分化メカニズムの解析
課題番号 21027023
研究目的

植物メリステムの細胞分裂制御や細胞分化誘導による器官形成において、タンパク質リン酸化によるカスケード活性化は重要なトリガーとなる。そこで、植物器官の時空間を考慮しながら、個々の細胞のリン酸化状態をモニタリングするイメージング解析を行う。4Dイメージングにより植物器官発生のライブセルイメージングによるオーロラキナーゼの動態解析を進めてきた。このような研究成果を踏まえ、オーロラキナーゼのリン酸化基質をもとに分子内FRETセンサーを構築する。このセンサーを発現する植物の形質転換体を作成し、FRETセンサーによるリン酸化勾配マップを経時的に作成する。ヒストンH3のリン酸化は分裂期細胞の染色体の動原体上に検出されることから、細胞分裂、倍数性、細胞の位置情報を同時に取得して、器官形成におけるヒストン・リン酸化の意義を明らかにする。ヒストン以外の基質も同定してFRETイメージングを行うことで、複数のカスケードにおけるin vivoリン酸化ダイナミクスを明らかにする。キナーゼ阻害、微小管形成阻害、細胞周期進行阻害などの影響によりリン酸化勾配の変化もモニタリングする。本研究課題により、リン酸化によるタンパク質活性の調節を植物体内で可視化することが可能になり、植物細胞間の情報伝達による植物器官形成の理解を促進すると期待できる。

主要論文

Kurihara, D., Matsunaga, S. et al. (2006) Aurora kinase is required for chromosome segregation in tobacco BY-2 cells. Plant J. 48, 572-580.

Takata, H., Matsunaga, S. et al. (2007)PHB2 protects sister-chromatid cohesion in mitosis. Curr. Biol., 17, 1356-1361.

Cartagena, J.A., Matsunaga, S. et al. (2008) The Arabidopsis SDG4 contributes to the regulation of pollen tube growth by methylation of histone H3 lysines 4 and 36 in mature polle. Dev. Biol., 315, 355-368.

研究室URL http://www.bio.eng.osaka-u.ac.jp/cl/matsunaga.html
班員名・所属 橋本 隆 [ 奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科 教授 ]
研究課題名 微小管構造と動態のイメージング
課題番号 21027024
研究目的

近年、生きた植物細胞で微小管細部骨格を蛍光標識し、その動態を詳細に観察できるようになってきた。蛍光タンパク質を付加したチューブリンは通常のチューブリンとともに微小管ポリマーへ共重合することから、微小管全体を蛍光標識できる。動植物で保存されているプラス端集積タンパク質End-binding Protein 1(EB1)に蛍光タンパク質を融合することにより、伸長中のプラス端を特異的に標識することが可能である。一方、微小管のマイナス端やγチューブリンを含む重合核を生細胞で蛍光標識することは難しく、現在までのところ報告されていない。
 植物個体レベルでは、胚軸や葉などの地上部の表皮細胞の表層微小管はGFP-チューブリンなどを用いて効率的に蛍光標識できるが、(理由は不明だが)根の微小管はあまり良く標識されず、根の表皮細胞などを微小管の動態観察に用いることができない。また、メリステムは細胞が小さく、微小管を可視化し、その構造や動態を観察することは非常に難しい。

 本研究では植物個体や培養細胞などに広範囲に利用できる微小管可視化ツールを開発・充実し、それらを用いて植物メリステムや細胞分化過程における微小管構築のダイナミックな変化を観察する。
主要論文

M. Nakamura, and T. Hashimoto (2009) A spiral3 mutation in the Arabidopsis g-tubulin-containing complex subunit causes abnormal microtubule branching-angle distribution and right-handed helical growth. J. Cell Sci. (in press).

M. Yao, Y. Wakamatsu, T. J. Itoh, T. Shoji, and T. Hashimoto (2008) Arabidopsis SPIRAL2 promotes uninterrupted microtubule growth by suppressing the pause state of microtubule dynamics. J. Cell Sci. 121: 2372-2381.

T. Ishida, Y. Kaneko, M. Iwano, and T. Hashimoto (2007) Helical microtubule arrays in a collection of twisting tubulin mutants of Arabiodpsis thaliana. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 104: 8544-8549.

研究室URL http://bsw3.naist.jp/hashimoto/hashimoto.html
班員名・所属 中島 敬二 [ 奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科 准教授 ]
研究課題名 胚発生における根端メリステムのパターン形 成機構
課題番号 21027025
研究目的

根端メリステム(RAM)は、胚発生初期から中期に形成され、発芽後の細胞分裂によって維持される。過去の研究において、発芽後のRAMの維持に機能する遺伝子がいくつか報告されているが、胚発生時にRAMが形成される過程には不明な点が多い。これまで、PINタンパク質の細胞内局在により、RAM予定領域にオーキシン濃度の極大が形成され、その下流でPLT遺伝子が機能することが知られている。しかし、初期胚においてPINタンパク質の局在がどのように制御されているかは不明である。我々はシロイヌナズナの初期胚において、植物特有の新規な転写因子様タンパク質がPINタンパク質の細胞内局在を制御し、これによってRAMの形成に機能していることを見出した。この転写因子様タンパク質は、受精卵から初期胚では胚全体で発現し、その後はRAM予定領域付近に発現が限定化される。本研究課題では、この転写因子様タンパク質がPINタンパク質の細胞内局在を制御する機構を明らかにするため、下流で制御される遺伝子と相互作用因子の同定をおこなう。

主要論文

Nakajima, K., Sena, G., Nawy, T. & Benfey, P. N. Intercellular movement of the putative transcription factor SHR in root patterning. Nature 413, 307-311 (2001).

Sarkar, A. K., Luijten, M., Miyashima, S., Lenhard, M., Hashimoto, T., Nakajima, K., Scheres, B., Heidstra, R. & Laux, T. Conserved factors regulate signalling in Arabidopsis thaliana shoot and root stem cell organizers. Nature 446, 811-814 (2007).

Miyashima, S., Hashimoto, T. & Nakajima, K. ARGONAUTE1 acts in Arabidopsis root radial pattern formation independently of the SHR/SCR pathway. Plant Cell Physiol 50, 626-634 (2009).
研究室URL http://bsw3.naist.jp/hashimoto/hashimoto.html
班員名・所属 梅田 正明 [ 奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科 教授 ]
研究課題名 植物の器官発生を支える細胞周期制御系の解明
課題番号 21027026
研究目的

茎頂や根端の分裂組織に存在する幹細胞は一般に遅い速度で細胞分裂を行い、植物の一生を通じて器官形成の場を提供している。一方で、器官原基形成以降の細胞分裂ではその速度が飛躍的に上昇することから、細胞分裂の質的制御が植物の持続的な成長を本質的に支えていると考えられる。我々はこれまでの研究から、器官発生過程においてCDK活性のレベル制御が必要不可欠な要素であることを明らかにしてきた。そこで、本研究ではまずCDK活性を制御する上流のシグナルに焦点を絞って研究を進めていく。この課題には、植物ホルモンのような内的シグナルとDNA損傷のような環境シグナルによる細胞周期制御の解析が含まれる。特に、動物や酵母にもホモログが存在するタイプのCDKAと植物特異的なCDKBの量的制御に焦点を当てて研究を進めていく。また、CDKの活性制御が器官発生において果たす機能的役割を明らかにするために、CDKの標的となる転写因子の機能をリン酸化制御に注目して解析する。さらに、通常の細胞周期がエンドサイクルに移行する分子メカニズムについても解析を行い、ゲノムの倍加が起こる生理的意義について組織レベルの考察を加えていく。以上の解析により、分裂組織から器官形成に至るまでの細胞周期制御系について、その分子的実体を明らかにすることを目指して研究を進めていく。

主要論文

Umeda, M., Umeda-Hara, C., and Uchimiya, H. (2000) A cyclin-dependent kinase-activating kinase regulates differentiation of root initial cells in Arabidopsis. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 97, 13396-13400.

Yamaguchi, M., Kato, H., Yoshida, S., Yamamura, S., Uchimiya, H., and Umeda, M. (2003) Control of in vitro organogenesis by cyclin-dependent kinase activities in plants. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 100, 8019-8023.

Kono, A., Umeda-Hara, C., Adachi, S., Nagata, N., Konomi, M., Nakagawa, T., Uchimiya, H., and Umeda, M. (2007) The Arabidopsis D-type cyclin CYCD4 controls cell division in the stomatal lineage of the hypocotyl epidermis. Plant Cell 19, 1265-1277.

研究室URL http://bsw3.naist.jp/umeda/index.html
班員名・所属 高橋 卓 [ 岡山大学自然科学研究科 教授 ]
研究課題名 高等植物の表皮分化機構の確立と維持に関わる転写因子の解析
課題番号 21027028
研究目的

高等植物のからだ作りにおいて,表皮細胞は決定的に重要な役割を演ずる。本研究者らは,地上部表皮の幹細胞である茎頂L1層に特異的に発現する遺伝子に注目し,その調節機構から表皮細胞分化の分子基盤の解明を目指してシロイヌナズナを用いた分子遺伝学的解析を行ってきた。これまでに,L1層に特異的な遺伝子の発現には,L1ボックスと名付けたシス配列が遺伝子上流に必要であること,L1ボックスにはホメオドメインをもつ転写因子PDF2, ATML1が結合する一方,これら自身がL1層に特異的な遺伝子発現を示し,その二重突然変異は表皮細胞分化が著しく欠損することを明らかにした。さらに,表皮欠損の二重変異株を用いたマイクロアレイ解析から,PDF2, ATML1が属するHD-ZIP IV遺伝子群の他にも表皮L1層に特異的な遺伝子発現に関わる転写因子の存在が予想された。

 本研究では,こうした背景に基づき,また,準備状況としてHD-ZIP IV遺伝子群の多くの変異株や発現解析のための形質転換植物が手中にある利点を生かして,シロイヌナズナの胚発生過程において,ATML1, PDF2の発現が茎頂L1層に限定される分子機構を明らかにするとともに,表皮細胞分化に関わる新たな転写調節因子を同定することを目標とした解析をすすめる。
主要論文

Abe, M., Katsumata, H., Komeda, Y. and Takahashi, T. (2003) Regulation of shoot epidermal cell differentiation by a pair of homeodomain proteins in Arabidopsis. Development 130, 635-643.

Nakamura, M., Katsumata, M., Abe, M., Yabe, N., Komeda, Y., Yamamoto, K.T. and Takahashi, T. (2006) Characterization of the Class IV Homeodomain-Leucine Zipper Gene Family in Arabidopsis. Plant Physiol. 141, 1363-1375.

Imai, A., Komura, M., Kawano, E., Kuwashiro, Y. and Takahashi, T. (2008) A semi-dominant mutation in a ribosomal protein L10 gene suppresses the dwarf phenotype of the acl5 mutant in Arabidopsis thaliana. Plant J. 56, 881-890.

研究室URL http://www.biol.okayama-u.ac.jp/takahashiTaku/T-Takahashi.html
班員名・所属 出村 拓 [ 奈良先端科学技術大学院大学 教授 ]
研究課題名 維管束メリステムからの細胞運命決定機構
課題番号 21027031
研究目的

水や塩類、養分、そして情報の伝達機関として働く維管束系は、木部の道管や繊維細胞、師部の師管や伴細胞、など多種類の細胞から構成される複合組織である。維管束系のすべての細胞はシュート頂と根端のメリステムから連続する幹細胞である維管束前形成層・形成層(すなわち維管束メリステム)に由来するが、維管束メリステム中の隣り合った未分化な細胞がそれぞれ異なる機能を持つ特殊な維管束細胞へと分化していくメカニズムについてはほとんどわかっていない。これまで私たちは維管束木部細胞の分化制御メカニズムを明らかにするために、木部細胞の分化過程における転写ネットワークにアプローチしてきた。その結果、単一のサブファミリーに属する一群のNACドメイン転写因子(VND1〜VND7)が維管束細胞に特異的に発現し、特にVND6とVND7がそれぞれ2種類の異なるタイプの道管(後生木部道管と原生木部道管)の分化を制御するマスター因子として機能することを見出し、これらNACドメイン転写因子ファミリーの働きによって維管束メリステムからの木部細胞の分化運命が決定されることが示唆された。そこで本研究では、道管分化のマスター遺伝子であるVND6およびVND7が関わる転写ネットワークを解明するために、主にVND7遺伝子の発現と機能の制御機構を解析することで、維管束メリステムからの細胞運命決定のメカニズムに迫ることを目的とする。

主要論文

Demura, T., Tashiro, G., Horiguchi, G., Kishimoto, N., Kubo, M., Matsuoka, N., Minami, A., Nagata-Hiwatashi, M., Nakamura, K., Okamura, Y., Sassa, N., Suzuki, S., Yazaki, J., Kikuchi, S., and Fukuda, H. Visualization by comprehensive microarray analysis of gene expression programs during transdifferentiation of mesophyll cells into xylem cells. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99, 15794-15799.

Kubo, M., Udagawa, M., Nishikubo, N., Horiguchi, G., Yamaguchi, M., Ito, J., Mimura, T., Fukuda, H., and Demura, T. (2005) Transcription switches for protoxylem and metaxylem vessel formation. Genes Dev. 19, 1855-1860.

Endo, S., Pesquet, E., Yamaguchi, M., Tashiro, G., Sato, M., Toyooka, K., Nishikubo, N., Udagawa-Motose, M., Kubo, M., Fukuda, H., and Demura, T. (2009) Identifying New Components Participating in the Secondary Cell Wall Formation of Vessel Elements in Zinnia and Arabidopsis. Plant Cell, in press.

研究室URL http://bsw3.naist.jp/courses/courses105.html
班員名・所属 杉本 慶子 [ 理化学研究所植物科学研究センター ユニットリーダー ]
研究課題名 メリステムにおける核内倍加周期の抑制機構
課題番号 21027032
研究目的

高等植物の器官形成にはDNA複製と細胞分裂が交互に起きる“細胞分裂周期”と、細胞分裂を伴わずDNA複製のみが繰り返される“核内倍加周期”が時空間的に正しく進行することが重要である。本研究はシロイナズナのメリステムで細胞分裂周期を促進し、核内倍加周期を抑制する分子ネットワークの解明を目指す。本年度は核内倍加抑制因子の単離を目指したスクリーニングによって得られたhigh ploidy 1-4 (hip1-4)のうち、すでに原因遺伝子が確定しているhip2に関してはその機能解析を行い、他の3変異体に関しては原因遺伝子を同定することで、核内倍加制御ネットワークの解明を目指す。また、植物ホルモンによる核内倍加制御の機構についても、その関係性を明らかとするための研究を行う。

主要論文

Breuer C, Stacey NJ, West CE, Zhao Y, Chory J, Tsukaya H, Azumi Y, Maxwell A, Roberts K, Sugimoto-Shirasu K (2007). BIN4, a novel component of the plant DNA topoisomerase VI complex, is required for endoreduplication in Arabidopsis. Plant Cell 19:3655-3668.

Dittmer TD, Stacey NJ, Sugimoto-Shirasu K, Richards EJ (2007). LINC (LITTLE NUCLEI) genes affecting nuclear morphology in Arabidopsis thaliana. Plant Cell 19:2793-2803.

Sugimoto-Shirasu K, Roberts GR, Stacey NJ, McCann MC, Maxwell A, Roberts K (2005). RHL1 is an essential component of the plant DNA topoisomerase VI complex and is required for ploidy-dependent cell growth. Proc Natl Acad Sci USA 102 (51): 18736-18741.

研究室URL http://labs.psc.riken.jp/cfru/