生体調節論講座 Laboratory of Biomolecular Architecture

 脳回路構造学 Group of Neural Circuit

Faculty and Research Theme


上川内 あづさ教授

上川内 あづさ(教授)

聴覚情報処理システムの動作原理の解明

 私たちの脳は、いろいろな種類の感覚情報を受け取って、それを個人の内的な欲求と照らし合わせることで特定の選択を取り出す、一種の情報処理装置としてとらえることが出来ます。このような脳がどのような仕組みで動いているのかを理解することは、私たち自身を理解するためにはとても重要です。しかし、私たちの脳の中ではたくさんの細胞が神経回路という複雑な配線を作って絡み合っているため、 特定の状況でどのような神経回路がどのように働いているのか、その全貌はいまだにはっきりとは理解されていません。私たちの研究室では、ショウジョウバエという、小さな脳を持つモデル動物を利用することで、神経回路レベルでの脳の動作原理の解明を目指しています。

ショウジョウバエ聴覚系の神経解剖学
ショウジョウバエの聴覚器(左)と脳の中の神経細胞(右)。

 私たち人間を含めた多くの動物は、コミュニケーション手段として音を利用しています。コミュニケーションに使われる音の多くは種に固有のパターンを持つため、その伝達が成立するためには、受け取った音の意味を理解する、といった脳での情報処理が必要です。では、脳の中のどのような神経回路の組み合わせがこのような情報処理を担っているのでしょうか。私たちは、神経回路レベルで脳を理解するための優れたモデル動物であるショウジョウバエを利用して、音情報処理を担う聴覚神経細胞の包括的な同定と神経回路地図の作製を行っています。ショウジョウバエは求愛する時に、「求愛歌」と呼ばれる種に固有の羽音を奏でます。このような音の情報処理を担う脳の神経機構の理解を目指して、私たちは、ショウジョウバエの聴覚神経回路の網羅的な同定解析を進めています。今までの私たちの研究から、ショウジョウバエの聴覚器から脳へ投射する一次神経細胞が形成する神経回路地図が世界で初めて明らかになりました。また、二次神経細胞が形成する神経回路の構造を調べてみると、私たち哺乳類の聴覚系と類似性を持つことも分かりました。このことは、ショウジョウバエを用いた聴覚研究が、私たち自身の聴覚システムの理解にも貢献しうることを示しています。現在は、これらの神経細胞から情報を受け取る、より高次な神経細胞の体系的な同定を進めることで、ショウジョウバエ聴覚系を構成する全神経回路の全体像の包括的理解を目指しています。

神経解剖学を基盤としたシステムニューロバイオロジー

聴覚神経細胞の応答を可視化した様子。

 ショウジョウバエでは、同定した神経細胞の活動を可視化したり、その機能を改変したり、といった様々な操作を可能にする分子遺伝学という実験手法が整備されています。これを利用して私たちは、解剖学的に分類された聴覚神経細胞の体系的な機能解析を行っています。現在までに私たちは、ハエの「耳」の中の神経活動をそのまま可視化するといった生理学的な実験方法や、それぞれの細胞群の機能だけを特異的に操作したショウジョウバエを使った行動実験法を開発して、研究を進めてきました。その結果、異なる脳領域に情報を伝える「耳」の感覚細胞群は、音や重力といった異なる刺激の伝達を担うことを発見しました。現在、さらに高次な音情報処理を担う聴覚神経細胞の解析を進めています。私たちはこのように、神経解剖学、神経生理学、神経機能を操作した個体の行動解析などといった、多階層に渡る実験を組み合わせて神経機能を探る、というシステムニューロバイオロジー的な手法を用いることで、音コミュニケーションを可能にする聴覚情報処理システムの動作原理の解明を目指しています。

References
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