われわれはさまざまの感覚によって外界を知り、その情報をもとに運動指令信号を生み出して巧みに体を動かすことができます。脳はどのようにしてこのすばらしい情報処理をおこなっているのでしょうか?人の脳には1000億もの神経細胞(ニューロン)が精緻で複雑な神経回路網を形成し、信号処理をおこなっています。複雑に見える脳といえども生物の進化の産物であり、過去から受け継がれた基本構造の中に、機械にまねの出来ない脳の優れた機能を発揮する原理が埋め込まれています。私たちはゼブラフィッシュやシクリッドや線虫を研究材料にし、脳の巧みなはたらきを基本的な仕組みから理解しようとしています。
感覚運動制御を担う脳回路の機能構築
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| (図1)ゼブラフィッシュの内耳の耳石(*)と有毛細胞(黄)と聴神経(緑) |
動物が外敵から逃げるという単純な運動を考えてみましょう。生存を左右するこの最も基本的な運動の中に、外界からの刺激を受容し感覚情報の統合を経て適切な運動出力を発現する、脳の根本的なはたらきが集約されています。硬骨魚のゼブラフィッシュは、音に鋭く反応して逃げます。音は内耳にある有毛細胞に生えた毛のナノメートル(100万分の1ミリメートル)オーダーの振動となって電気信号に変換され、聴神経を経由して脳へ伝えられて感知されます(図1)。このような超高感度の細胞装置はどのようにできるのでしょうか?また、音の情報はどのように脳へ伝えられるのでしょうか?有毛細胞の発生過程や聴覚獲得のメカニズムをパッチクランプ法やイメージングで調べています。
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| (図2)逃避運動を制御するマウスナー(M)細胞と後脳のニューロン群 |
また、逃避運動の駆動には、後脳で最初にニューロンに分化するマウスナー細胞(図2)が重要な役割を果たします。そのニューロンの特別な働きを決めるチャネルの発現や局所神経回路の形成を生理学的・分子生物学的手法で探っています。さらに、“進化の実験場”タンガニイカ湖のシクリッドを用いて、系統進化に伴う生態の多様化にあわせて、脳の働きがどのように進化・適応してきたかという視点からも研究しています。
運動・行動を制御する遺伝子の単離と解析
動物に侵害刺激を与えると、皮膚などにある感覚ニューロンから中枢神経系を経て筋に信号が伝播し、骨格筋を収縮して逃避運動が起こります。この運動はどのような遺伝子に制御されているのでしょうか?私たちは正常な逃避運動ができないゼブラフィッシュ変異体の責任遺伝子を同定し、その生理機能を解明して、答えを探っています。これらの変異体は運動障害のモデルになるので、ヒト疾患の理解と治療に応用できます。ゼブラフィッシュでは受精から2日以内に機能的なシナプスが形成され、高度な運動能を獲得するので、発生期のシナプス形成とその可塑性を解析できる系としても注目しています。
セマフォリン・プレキシン系の情報伝達機構
精緻な神経回路をつくるためには、ニューロンが互いに正しく結びつかねばなりません。軸索伸長を制御するセマフォリンというシグナル分子とその受容体であるプレキシンの研究は神経回路形成や神経線維再生の仕組みの解明に役立つと期待されています。モデル生物である線虫C. elegansを用いた私達の研究から、セマフォリンがタンパク質の翻訳調節を介して細胞の形を変化させるという意外な事実がわかってきました。また、私達はレーザーを利用して線虫個体中のねらった細胞において特定の遺伝子の発現をon/offする技術を最近開発しました。発生や神経の研究に今後、活用されることが期待されます。
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| 小田教授と研究室のメンバー |
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