私たちはいつも時計を持って生活しています。その必要性は、時計がどんなに役立っているかをちょっと振り返ってみれば、すぐわかると思います。当然、動物、植物あるいはバクテリアでも、時計によって一日の生活を調整することが有利なことは明らかです。このような事情で、生物は進化の過程で約24時間周期の時計機構(概日時計といいます)を細胞内に備えるようになったと考えられています。 私たちはこの概日時計の仕組みを明らかにし、概日時計が生物の生活をいかに豊かにしているかを理解したいと考え、時計を持つ最も単純な生物シアノバクテリアを使って研究を進めています。シアノバクテリアは光合成に依存して生活しますが、Synechococcuselongatusという系統は遺伝子組換が容易なので、これに生物発光酵素の遺伝子を組み込み、概日時計の動きを光でモニター出来るようにしました。これをうまく利用し、1996年頃、概日時計のミュータントを手掛りに、3つの遺伝子がその概日時計の中心であることを発見し、回転の“回”にちなんで kaiA, kaiB, kaiC と名付けました。
この3つの遺伝子から作られる蛋白質KaiA, KaiB, KaiCはどのようにして時を刻んでいるのでしょうか?様々な試みの結果、私たちはこの3つの蛋白質とATPを試験管内で混ぜるだけで、安定した約24時間の振動を発生させることに成功しました(図1)。
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| (図1)試験管内でのKaiCリン酸化サイクル
KaiA,KaiB,KaiCとATPを試験管内で混合しその状態を電気泳動で調べた。 KaiCはリン酸化により2つバンドに別れるが、その状態は約24時間周期で変動している。 |
KaiC蛋白質はKaiAとKaiBの協力で、24時間周期でリン酸化サイクルを繰り返しているのです。このサイクルは温度によって速さが変わらないという概日時計に特有な性質をもつので、細胞が時間を刻む基本的な仕組みだと考えられます。さらに最近の研究によると、1)KaiCは2つの隣り合ったアミノ酸がリン酸化され、その影響が相互に及ぶことで24時間のリン酸化シナリオが決められていること、2)KaiCは1日に15−16個というごく微弱なATP分解活性をもつが、この活性は温度の影響を受けず、概日時計の速さと比例すること、が明らかになり、24時間を刻む機能はKaiC蛋白質自体に潜んでいることが示されました。さらにKaiCは6つが1組になった構造(6量体)をもつのですが、この6量体の間で相互に時刻を調整する機能も明らかになりました。このようにKaiCは壁掛け時計の「振り子」の相当する蛋白質なのですが、今後、KaiCが時を刻む仕組みを解明するとともに、細胞内でどのようにして時計として機能しているかを明らかにしたいと考えています(図2)。
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| (図2)シアノバクテリアの概日システム
黄色の部分が時を刻むKaiCのATPase活性、青色の部分が振子に相当するKaiCリン酸化サイクル。これは試験管内でも振動する。緑の部分が歯車や針に相当する転写翻訳リズム。この3つは相互に影響しあって機能する。 |
シアノバクテリアでは概日時計はすべての遺伝子発現に影響を及ぼしていますので、時計を中心とした細胞全体の生き様をシステムとして理解することも可能でしょう。
シアノバクテリアは単純な原核生物ですが、概日時計の研究には大変有利で、現在では最も研究の進んだ生物で、ヒトも含む多くの生物の時計研究に重要な意味を持っています。なぜなら、種や遺伝子が異なっても、進化の結果開発されてきた概日時計の原理は似ているでしょうから。
私たちの研究室で行われている実験や研究の主要な部分は分子生物学ですが、生命現象と密接に関連していることが特徴です。このため概日時計の動きを正確に測定するために、多くの測定器を自ら開発しています。今後は構造生物学をはじめとして、物理、化学、数理、システム工学なども重要になってくるでしょう。
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| 研究室のメンバー |
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